研究課題
全身性エリテマトーデスなどの全身性自己免疫疾患の病態は今なお不明な点が多く、根治療法は確立されていない。現在行われている免疫抑制療法は感染症等の重大な副作用を生じうるため、病態に即した選択的治療法の開発が望まれている。申請者らは全身性自己免疫疾患の病態解明を目指してリンパ球減少誘導性自己免疫モデルマウスを解析し、リンパ球減少下の生理的なリンパ球増殖反応によって自己反応性の濾胞性ヘルパーT細胞が出現すること、またその経路に腸内細菌の存在が重要であることを見出した。さらに本モデルマウスおよび古典的自然発症ループスモデルマウスに対して複数の抗生剤を経口投与することにより自己免疫疾患発症が抑制される事象を明らかにしてきた。本研究は、腸内細菌が自己免疫へ寄与する経路の解明、さらにヒト自己免疫疾患における腸内細菌の意義を検討し、腸内細菌を標的とした新規治療法開発の基礎を築くことを目的とする。平成28年度は、BALB/cヌードマウスにBALB/c野生型マウス脾細胞由来のCD4陽性CD25陰性T細胞を移入することで全身性および臓器特異的自己免疫疾患を発症するモデルマウスを用いて、種々の抗生剤の経口投与による腸管滅菌が、全身性および臓器特異的自己抗体産生と各臓器障害の発症に及ぼす影響について検討した。さらに同モデルマウスに対する抗生剤投与による腸内細菌叢の変化について、抗生剤投与前後の糞便サンプルに対する16S rRNAメタゲノム解析を用いて明らかにした。上記内容の一部についてScientific Reports誌に発表した。
2: おおむね順調に進展している
1-4種の抗生剤の組み合わせ投与による腸管滅菌による、抗核抗体すなわち全身性自己抗体と、抗胃壁抗体などの臓器特異的自己抗体の抑制効果を明らかにした。各臓器障害については、抗生剤投与によって改善するものと増悪するものが見られ、自己抗体産生以外の経路においても、腸内細菌が各臓器の自己免疫病態に直接的もしくは間接的に影響を及ぼしている可能性が示唆された。4種の抗生剤投与による腸管滅菌について、抗生剤投与前、投与2、4週後のマウスの糞便サンプルに対する16S rRNA解析を行うことにより、腸内細菌の変化を同定した。
抗生剤の各種組み合わせおよび各臓器ごとに異なる治療効果が得られたことから、各臓器ごとに疾患発症、病態形成に影響を与える特異的な抗生剤の組み合わせを検討する。同時に、糞便に対する16S rRNAメタゲノム解析およびPCR法を用いた細菌叢解析を行うことにより、全身性自己免疫および各種臓器特異的自己免疫疾患発症に寄与する特異的な細菌または細菌叢の変化を明らかにする。並行して、腸内細菌叢変化による代謝の変化が獲得免疫や全身状態に与える影響について、遺伝子機能データベースを用いて明らかにすることを目指す。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
Scientific Reports
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