自己免疫疾患の発症機序の詳細は未だ不明であり、現在その治療の中心は免疫抑制療法であるが、感染症等の重大な副作用を生じうるため、病態に即した選択的治療法の開発が望まれている。近年、腸内細菌をはじめとした常在微生物が宿主の免疫系の発生や恒常性維持に寄与することが報告されている。また臨床的にも炎症性腸疾患のみならず関節リウマチ等の腸管外の自己免疫疾患と腸内細菌との関連を示唆する報告がなされているが、その因果関係やメカニズムは解明されていない。申請者らは全身性自己免疫疾患の病態解明を目指して、リンパ球減少下に生じる生理的なリンパ球増殖反応であるLymphopenia-induced proliferation (LIP) によって誘導される自己免疫疾患モデルマウスを解析した。BALB/cヌードマウスに野生型マウス脾細胞由来のCD4陽性CD25陰性T細胞を移入すると、抗核抗体産生、胃炎・腸炎・唾液腺炎、卵巣炎などの全身性および臓器特異的自己免疫疾患が生じる。その発生機序として、移入細胞がLIPを経て濾胞性ヘルパーT細胞様の働きを持つPD-1陽性CXCR5低発現のCD4陽性細胞を生じ自己抗体産生を促進すること、またその経路に腸内細菌の存在が重要であることを見出した。さらに本モデルマウスに対して複数の抗生剤を経口投与することにより全身性自己抗体産生および胃炎・腸炎の発症が抑制されることを明らかにした。さらに抗生剤投与前後の糞便より抽出した16S rRNAに対するPCRおよびメタゲノム解析により、腸管滅菌による腸内細菌の数および多様性の減少が観察された。以上の内容についてScientific Reports誌に発表した。将来の治療開発に向けて、腸内細菌が全身性自己反応性T細胞の誘導に寄与する機序およびヒト自己免疫疾患におけるLIPと腸内細菌の関与について、今後さらなる検討を要する。
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