研究課題/領域番号 |
16K19615
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
尾田 一貴 熊本大学, 医学部附属病院, 薬剤師 (00753328)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 抗菌薬 / 敗血症 / 集中治療 / TDM / 血液透析 |
研究実績の概要 |
敗血症患者の救命率を最大に高めるために、薬物血中濃度測定及び薬物動態解析による投与量の解明を実施してきた。初年度はバンコマイシンの投与量調整について一定の見解を示してきた上で、当該年度はさらに、特に持続血液透析療法を受けており、かつ広域スペクトラムを持つ抗菌薬であるメロペネムが投与された患者 (19 名) から血液検体を採取し、高速液体クロマトグラフィ (HPLC) 法によりその血中濃度を測定した。その測定結果及び患者の生理的条件などを含めた母集団薬物動態 (PPK) 解析の結果、全身炎症正反応症候群スコア (SIRS スコア:白血球、呼吸数、体温、脈拍数で規定される)がある一定の値を示す場合に、有意な排泄能(全身クリアランス)の増大を認めた。 これまでも SIRS スコアが抗菌薬の全身クリアランスに影響を与えるとの報告はいくつかあるが、特に持続血液透析療法を受けている患者においての報告は本研究が初となる。基本的には持続血液透析療法を受けている場合は、減量することが求められる、本研究の結果は、SIRS スコアの値によっては、メロペネムは減量してはならないことを示す重要な知見であり、さらなる検証が必要となる。その検証のためには、迅速な血中濃度測定系の確立が必須であり、HPLC 法および 質量分析-高速液体クロマトグラフ (LC-MS/MS) 法によるものを引き続き検討している。現時点で広く普及させることを考慮することから、まずは HPLC 法による迅速な測定、および患者個別の投与量調整への確立に可能性を検討している。その後、LC-MS/MS法による迅速測定法の確立及び普及に努めていく方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては、薬物動態解析を行う上での必要な血中濃度測定系の確立を、目的とする抗菌薬においてはほぼHPLC 法によって達成している。事実として2年目では、バンコマイシン及びメロペネムの薬物動態解析による投与量についての所見を得ている。他の抗菌薬についても、血中濃度測定系はひとまず HPLC 法があることから、さらに患者数が集まれば順次、薬物動態解析を実施し、投与量についての所見を得る準備ができている。 一方 LC-MS/MS による測定の大きなメリットは感度及び迅速性である。そこで、現時点では検証的にまず3種類の抗菌薬について測定方法の確立は達成されているものの、薬物動態解析を主とする場合、感度は HPLC 法によって十分に担保できていた。一方で、臨床現場へ迅速にフィードバックするための迅速性はこれまで必要としていなかったことから、LC-MS/MS による血中濃度測定系の確立は進んではいなかった。しかし、LC-MS/MS での測定系の確立は今後も引き続き行っていくが、研究を進めていくと、広く普及させることをまず考慮した場合、HPLC 法の簡便性に利点があると強く感じてきた。その利点とはLC-MS/MSほどの高感度分析をするわけではないこと、および現時点で所有している施設数は、圧倒的にLC-MS/MS よりも多いことである。この利点を最大限に活かすべく、HPLC 法の簡便性をさらに高めるための研究を同時に行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
薬物動態解析の質を担保するためには、敗血症かつ持続血液透析を実施する患者の検体数の収集についてはこれからも待たざるを得ないことから、一つ一つの症例で研究組み入れを図っていくことはもちろんとして、現時点で得られている所見を検証していく段階に入る必要がある。そのためには、これまで得られてきた投与方法が果たして妥当なのかを、まずは目標血中濃度の達成という薬物動態的な観点からの検証を行う方針である。さらには、実際に測定した血中濃度が低いことが明らかになれば、その時点で投与量調整を行う必要性が倫理的に検討されることから、少なくとも迅速に臨床に結果をフィードバックできるような血中濃度測定系の確立が、今後の研究を進めるうえで必要となる。先述のとおり、現時点では、我々は LC-MS/MSではなくHPLC 法による可能性を見出しているために、その手法を早期に確立させ、臨床での検証に進む予定である。 また LC-MS/MS による同時測定方法の確立においては、これまでと同様の方法を基盤として引き続き実施していく。
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