本研究はトガウイルスのゲノム複製に関与する宿主因子を同定し、その作用機序から特異的治療方法やワクチンが無いトガウイルス感染症に対する治療薬開発の基盤を得ることを目的にした。 2016年は風疹ウイルスレプリコン細胞と膜輸送並びに細胞骨格因子のsiRNAとそれらの特異的阻害剤を用いたスクリーニングによって、ゲノム複製に関与する宿主因子の候補を複数決定した。2017年は候補因子のうち、癌治療の標的分子として様々な阻害剤が作出されていることから、選択的分子シャペロンであるheat shock protein 90(Hsp90)に着目して風疹ウイルスとシンドビスウイルスにおける関与を、1)ウイルス産生への影響、2)ウイルスタンパク質との相互作用、3)ウイルスタンパク質の機能への影響から解析した。その結果、Hsp90阻害剤の濃度依存的にウイルス産生が優位に低下すること、ゲノム複製に関与するウイルスタンパク質とHsp90が相互作用すること、Hsp90阻害剤により相互作用するウイルスタンパク質の安定性並びに機能が低下することを確認した。2018年は、定量PCRにより阻害剤処理によりゲノム複製が低下することも確認した。また風疹ウイルスにおいては、Hsp90の関与を再検証するためにsiRNAを用いて、1)と3)の解析を行い、阻害剤を用いた時と同様の結果を得た。以上より本研究では、Hsp90がトガウイルスのゲノム複製を担うタンパク質と相互作用して、それらウイルスタンパク質の安定性や機能性に寄与すること、トガウイルスのゲノム複製に関与する重要な宿主因子であることを明らかにした。用いた阻害剤は癌治療薬として臨床試験に進んでおり実用化が期待されている。本研究の感染実験においても細胞障害性を示さない低濃度で効果的にウイルス産生を抑えることから、トガウイルス感染症の治療薬候補になる可能性が示唆された。
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