小児難治性ネフローゼ症候群(NS)に用いられるリツキシマブ(RTX)はB細胞を枯渇させ T細胞とのクロストークを抑制することにより抗尿蛋白効果を発揮するとされているが、B細胞枯渇中にもかかわらず再発を繰り返す例や、B細胞が陽性にもかかわらず寛解を維持している例が存在する。これらのことからNSの一部にB細胞非依存性の病態が想定されていた。2011年に Fornoniらは podocyteの細胞膜上に発現している Acid sphingomyelinase like phosphodiesterase 3b (SMPDL3b)をRTXが直接標的とすることを報告した。SMPDL3bは細胞膜に発現するスフィンゴミエリンをセラミドに変換する酵素であり、その機能や発現の低下は脂質ラフトを介するシグナリングの異常をもたらし、細胞骨格の制御が不安定になるとされているが小児期発症NSにおける意義は不明であった。 申請者らは小児難治性NSおよびその他の糸球体疾患におけるSMPDL3b発現の意義について、NSでは腎糸球体上のSMPDL3bの発現が低下していることを腎生検切片の蛍光抗体法で示した。また再発中のNSでは寛解期や他のループス腎炎、IgA腎症、紫斑病性腎炎症例で同程度の蛋白尿を示す症例と比べて尿中SMPDL3bの排泄が特異的に低下していることをdot blot法にて明らかにした(業績1、第52回小児腎臓病学会)。特にRTX抵抗例では、RTX反応性のNSとは対照的に寛解中にもSMPDL3bの発現と尿中排泄が低下していたことが判明した(第52回小児腎臓病学会)。以上からSMPDL3bの発現の変化が小児難治性NSにおいて病態や重症度に関与していることが示唆され、尿中SMPDL3bの排泄量を測定することでNSの疾患活動性やRTXへの反応性予測マーカーの開発への基礎データが得られた。
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