研究課題
初年度は574名の対象者においてClass II HLA (HLA-DPB1, DQB1, DRB1)のアリル、アミノ酸多型について検討し、B型肝炎(HB)ワクチン反応性と有意に関連するアリルとアミノ酸多型を同定した。さらに同定したアミノ酸がHLA-DP, DR分子において抗原結合に重要とされる部位である「ポケット」に位置していることを明らかにした。Class II HLA分子はα鎖とβ鎖からなるヘテロ二量体であり、今年度は、HLA-DP分子の構造をさらに詳細に明らかにするために、951名の対象者において、HLA-DPB1(β鎖)に加えてHLA-DPA1(α鎖)のgenotypingを行い、HLA-DPA1, DPB1両方の抗原結合領域の全アミノ酸多型について、HBワクチン反応性との関連解析を行った。この結果、DPA1, DPB1それぞれに複数のアミノ酸部位の関連が明らかとなった。また、従来B型慢性肝炎の罹患しやすさに関してもGWAS研究などにより、HLA-DP領域の遺伝子多型と強い関連があることが繰り返し報告されてきた。このため、この951人において、HLA-DP分子のアミノ酸領域だけではなく、B型肝炎の罹患しやすさとの関連が報告されているアリルや非構造領域のSNPsについても、HBワクチン反応性との関連解析を行った。本研究で同定されたHBワクチンと有意に関連するHLA-DP領域のアリルおよびSNPsは、Kamataniら(Nature Genet 2009)によって大規模GWASで日本人の慢性B型肝炎と関連があることが報告された遺伝要因と全く共通であることが明らかとなった。このことから、HBワクチン反応性に関連する遺伝要因と慢性B型肝炎の罹患しやすさと関連する遺伝要因について、共通の分子機構が働いているものと推測された。
2: おおむね順調に進展している
HBワクチン3回接種後の健常若年成人951名について、HLA-DPA1アリル、-DPB1アリル、SNPsのタイピングを施行し、これらの遺伝要因およびそのハプロタイプとHBワクチン反応性を検討し、アミノ酸配列やHLA-DP分子の立体構造について解析した。さらに、1,000ゲノムプロジェクトなどのデータを用いて、HLA-DP分子多型の人種差の網羅的な検討を行った。
新たに発見したHBワクチンと強く関連する遺伝要因が、肝炎においても有用か否かについて検証するための追加実験を行う。慢性B型肝炎の罹患しやすさとも関連していることが証明できる可能性があり、この知見の臨床的な有用性についても示せることが期待される。
個人情報保護法等の改正に伴うヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針の見直しによって倫理審査等に時間を要したために、今年度の研究の開始は遅くなったが、その後は当初の研究計画に沿って順調に進められている。その結果、日本人951名についての解析によって、Class II HLAのHLA-DP分子がワクチン反応性に関連する分子機構について新たな仮説を提示することができた。また、HBワクチン反応性と関連するHLA-DPの遺伝要因は、HB罹患後の慢性化のしやすさと関連するHLA-DPの遺伝要因と一致することが明らかとなった。両者にはHBs抗原に対する宿主の免疫応答という共通点があり、本研究を進めることで肝炎の予後予測においても有用な知見を得られることが期待できる。研究期間の延長が認められたので、新たに発見したHBワクチンと強く関連する遺伝要因が、B型肝炎感染後の慢性化においても有用か否かについて検証するための追加実験を行う。
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