研究課題
メタボリックシンドロームの基盤病態として、肥満脂肪組織における慢性炎症が想定されているが、細胞内の炎症の慢性化機構は不明点が多い。申請者は、細胞記憶の観点から、エピジェネティック因子に注目し、マクロファージのヒストンメチル化酵素Setdb1が内在性の炎症抑制因子であることを明らかにし(Hachiya R et al. Sci. Rep. 2016)、自然免疫におけるエピジェネティクスの重要性は、環境因子に応じた適切な炎症応答を制御することにあるとの仮説を打ち立てた。本研究の目的は、Setdb1の病態生理的意義を検討すること、Setdb1活性化を誘導する環境因子の探索を行うことにより、Setdb1による環境因子に応じた炎症制御機構の意義を明らかにすることである。初年度である本年度は、低グルコースおよび高グルコース濃度下での炎症制御におけるSetdb1の意義についての検討を行った。肥満糖尿病モデルマウスの血管平滑筋細胞において、Suv39h1(Setdb1とは別のヒストンH3K9メチル化酵素)の発現が低下し、in vitroで培養後も炎症性サイトカインの発現が持続するという既報を参考にして解析した。野生型マクロファージでは高グルコースによって主要な炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL6)の発現が上昇するが、Setdb1欠損マクロファージでは高グルコースによるIL6上昇が認められなかった。以上のことから、肥満糖尿病のような慢性炎症においてもSetdb1が炎症抑制因子として重要である可能性が示唆された。
3: やや遅れている
年度の途中に研究代表者が異動することとなり、これまでの成果をいったんまとめて論文に発表することに時間を費やした上、異動先での実験の立ち上げに時間を要した。
異動先では、in vitroの検討を行える十分な機器類があり、今年度の進捗を生かし、Setdb1による環境因子に応じた炎症制御機構の意義を引き続き検討する。
異動前と同様の試薬類を揃えるため、計画当初より大幅に経費がかかるため、当該年度に生じた次年度使用額を充てる予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 28845
10.1038/srep28845