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2016 年度 実施状況報告書

皮膚免疫応答の制御による、食物アレルギーの感作抑制と免疫療法への応用

研究課題

研究課題/領域番号 16K19633
研究機関福井大学

研究代表者

川崎 亜希子  福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 特命助教 (00584856)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード経皮感作 / 食物アレルギー / 免疫療法 / 動物モデル
研究実績の概要

これまでに樹立した経皮感作による食物アレルギーモデルを用い、皮膚炎症の増強、または軽快が、既に発症した食物アレルギー症状に与える影響について検討を行った。経皮感作を成立させ、経口抗原負荷でアレルギー症状の誘発を確認した後、皮膚炎症状を増悪させるアジュバント(活性化ビタミンD3アナログ:MC903)の塗布や機械的刺激を行い、もしくはアトピー性皮膚炎の治療に用いるステロイドを一定期間塗布し、その後2回目の経口抗原投与により誘発される食物アレルギー症状の推移を比較検討した。
MC903塗布を継続した群では、表皮の肥厚と真皮に好酸球を含む細胞浸潤を認め、皮膚炎症状の増強が確認された。さらに2回目の経口抗原投与では誘発症状の増強を認めた。非感作部位への機械刺激による皮膚炎症群でも2回目の誘発症状は増強された。皮膚炎増強群ではマスト細胞の活性化マーカーとされる血清中mmcp-1が、経口抗原投与前、後ともに高値を示し、マスト細胞の活性化が維持され抗原への反応性が増強している可能性が考えられた。腸管粘膜では好酸球浸潤の増加もみられた。
ステロイド塗布群では、皮膚炎症状の軽快とともに2回目の誘発症状増強が軽減され、mmcp-1の低下と皮膚・腸管粘膜の好酸球浸潤の減少がみられた。
経皮感作による食物アレルギーモデルでは、食物アレルギー発症後の皮膚症状が、その後の経口投与による誘発症状の推移に影響を与える可能性が有ると考えられた。その機序として皮膚炎症状が、局所だけでなく、腸管におけるマスト細胞や好酸球等にも影響を与えている可能性が示唆された。
皮膚炎増強群の皮膚におけるmRNA発現についてGeneChipを用いて網羅的に解析した結果では、Mcpt8やTSLP、IL-4等の増強を認め、好塩基球やTh2サイトカインの関与が示唆された。今後さらに解析を進め、免疫学的機序について解明していく方針としている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

これまでに確立した経皮感作による食物アレルギーモデルマウスを用い、皮膚症状への介入が、一度発症した食物アレルギーの誘発症状推移に影響を及ぼすことが確認できた。すなわち、アジュバントや機械的刺激による皮膚炎症の増強に伴い、経口投与時にみられる即時型アレルギー症状の増強を認めたが、ステロイド治療を施したものでは、皮膚炎症状が改善されたのみでなく、同時に誘発症状増強の軽減が得られた。
機序については、皮膚局所と腸管の組織変化を観察するとともに、血清中因子について解析を行った。皮膚炎増強群において経口抗原投与前、後ともにmmcp-1の上昇がみられ、また皮膚局所では表皮の肥厚と真皮の細胞浸潤、好酸球浸潤を伴う皮膚肥厚の増強を認め、さらに腸管でも好酸球浸潤の増加を認めた。ステロイド介入群では、皮膚炎症の抑制のみならず、腸管の好酸球浸潤の減少と、血清mmcp-1上昇の抑制が認められた。皮膚炎症の持続は局所のみならず、腸管の好酸球やマスト細胞にも影響を及ぼす可能性が示唆された。

今後の研究の推進方策

今後は、皮膚炎増強時、または軽快時の皮膚と腸管粘膜におけるmRNA発現解析を進め、皮膚炎増強で上昇する因子、治療により低下する因子を見出していく。また消化管指向性のホーミングを誘導する接着分子やケモカインレセプター発現制御に関わる因子についても合わせて評価していく。発現量の増加がみられた因子の中和抗体あるいは、その産生を抑制する可能性がある阻害剤を用いることで、誘発症状が抑制されるかを検討し、経皮感作による食物アレルギーの発症や増強予防につながる標的分子を明らかにしていく。さらに阻害剤を併用した経皮抗原感作で、抗原特異的な免疫療法効果が得られるかを検証する。
免疫療法効果が得られた場合、経口免疫寛容の成立・維持に中心的役割を果たすとされる腸間膜リンパ節のリンパ球サブセット解析を行い、制御性T細胞等の誘導について評価するとともに、抗原特異的なサイトカイン産生パターンの変化を解析する。さらに血清中の抗体価やサイトカイン等について合わせて検討し、免疫療法の治療効果モニタリングに利用可能なバイオマーカーの同定を試みる。
また皮膚、腸管でのmRNA発現の変化がみられたもののうち、Th2反応あるいは制御性T細胞の誘導、肥満細胞の活性化に影響を与える可能性のある因子について、血清中にその蛋白の発現量が増加しているか否かをELISAで測定する。
皮膚症状の変化が食物アレルギー症状に影響を与える際に重要な働きを示す血清中因子が見いだせれば、実際の食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎患者で、そのヒトに相当する因子の血清中濃度をELISAにより測定する。またアトピー性皮膚炎のコントロール状態をSCORADで評価し、この血清中濃度との相関を解析する。そして、合併する食物アレルギーの寛解等の経過にともない血清中濃度がどのように変化するかを解析し、食物アレルギーの予後判定に応用可能かを検討していく。

次年度使用額が生じた理由

本年度、皮膚炎症状への介入を行った経皮感作食物アレルギーモデルにおいて、皮膚でのmRNA発現についての解析をGene Chipを用いて網羅的に解析した。変化が見られたmRNAについて、Th2反応の誘導や肥満細胞の活性化等にかかわる因子を検討するとともに実際にReal-time PCR等を用いた更なる解析が必要と考えられ、そのため本年度購入予定の試薬や消耗品の購入を一部次年度以降にずらしている。

次年度使用額の使用計画

皮膚でのmRNA発現においてGene Chipの解析で変化が見られたものについて、個体数を増やし、また治療介入後等の異なる条件下での個体についてmRNA発現をReal-time PCRを用いて解析を進める。また症状出現部位である腸管粘膜でのmRNA発現についても合わせて解析を行う。さらにこれらmRNA発現に関与する血清中のサイトカイン等についてELISAで測定し検討していく方針としている。

  • 研究成果

    (15件)

すべて 2016

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件)

  • [雑誌論文] 児童館職員の食物アレルギーに対する認識とその問題点2016

    • 著者名/発表者名
      村井 宏生, 林 仁幸子, 河北 亜希子, 安冨 素子, 大嶋 勇成
    • 雑誌名

      日本小児アレルギー学会誌

      巻: 30巻4号 ページ: 553-561

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 教育現場で学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)が活用されるための提案2016

    • 著者名/発表者名
      安冨 素子, 村井 宏生, 岡崎 新太郎, 河北 亜希子, 林 仁幸子, 眞弓 光文, 大嶋 勇成
    • 雑誌名

      小児科臨床

      巻: 69巻10号 ページ: 1692-1698

    • 査読あり
  • [学会発表] 新規ACTN1変異による先天性巨大血小板性血小板減少症の1例2016

    • 著者名/発表者名
      安冨 素子, 國島 伸治, 岡崎 新太郎, 河北 亜希子, 吉川 利英, 鈴木 孝二, 土田 晋也, 谷澤 昭彦, 大嶋 勇成
    • 学会等名
      第58回日本小児血液・がん学会学術集会
    • 発表場所
      東京都港区
    • 年月日
      2016-12-15 – 2016-12-17
  • [学会発表] Public Elementary School Teachers’ Comprehension of the Usage of an Epinephrine-auto-injector (EAI) in Japan2016

    • 著者名/発表者名
      Murai H, Itoh N, Kawasaki A, \Yasutomi M, Ohshima Y
    • 学会等名
      American College of Allergy, Asthma and Immunology 2016 Annual Sientific Meeting
    • 発表場所
      San Francisco,USA
    • 年月日
      2016-11-10 – 2016-11-14
    • 国際学会
  • [学会発表] 唾液中YKL-40は気管支喘息患者の末梢気道狭窄を反映する2016

    • 著者名/発表者名
      村井 宏生, 伊藤 尚弘, 川崎 亜希子, 安冨 素子, 大嶋 勇成
    • 学会等名
      第49回日本小児呼吸器学会
    • 発表場所
      富山県富山市
    • 年月日
      2016-10-28 – 2016-10-29
  • [学会発表] 混合結合組織病のレイノー現象にシルデナフィルが有効であった1例2016

    • 著者名/発表者名
      安冨 素子, 河北 亜希子, 山田 健太, 鈴木 孝二, 大嶋 勇成, 宮川 和彦
    • 学会等名
      第26回日本小児リウマチ学会総会・学術集会
    • 発表場所
      千葉県千葉市
    • 年月日
      2016-10-21 – 2016-10-23
  • [学会発表] A patient with STAT3 gain-of-function mutation2016

    • 著者名/発表者名
      Yastumomi M, Suzuki K, Tsuda M, Watanabe K, Ohshima Y, Morioka S, Ishihara Y, Kanegane H, Hoshino A, Takashima T, Takagi M, Wada T
    • 学会等名
      第53回日本小児アレルギー学会
    • 発表場所
      群馬県前橋市
    • 年月日
      2016-10-08 – 2016-10-09
  • [学会発表] 汎下垂体機能低下症に合併した食物依存性運動誘発アナフィラキシーの1例2016

    • 著者名/発表者名
      安冨 素子, 畑 郁江, 野村 詠史, 伊藤 尚弘, 岡崎 新太郎, 河北 亜希子, 林 仁幸子, 村井 宏生, 眞弓 光文, 大嶋 勇成
    • 学会等名
      第53回日本小児アレルギー学会
    • 発表場所
      群馬県前橋市
    • 年月日
      2016-10-08 – 2016-10-09
  • [学会発表] 食物アレルギー発症後の皮膚症状への介入が誘発症状に与える影響2016

    • 著者名/発表者名
      河北 亜希子, 野村 詠史, 伊藤 尚弘, 林 仁幸子, 村井 宏生, 安冨 素子, 大嶋 勇成
    • 学会等名
      第53回日本小児アレルギー学会
    • 発表場所
      群馬県前橋市
    • 年月日
      2016-10-08 – 2016-10-09
  • [学会発表] 完全母乳栄養児におけるアレルギー疾患発症と母乳中miRNAプロファイルとの関係2016

    • 著者名/発表者名
      村井 宏生, 岡崎 新太郎, 伊藤 尚弘, 河北 亜希子, 安冨 素子, 大嶋 勇成
    • 学会等名
      第53回日本小児アレルギー学会
    • 発表場所
      群馬県前橋市
    • 年月日
      2016-10-08 – 2016-10-09
  • [学会発表] レイノー現象に対してPDE5阻害剤が有効であった混合結合組織病の1例2016

    • 著者名/発表者名
      安冨 素子, 河北 亜希子, 山田 健太, 鈴木 孝二, 眞弓光文、大嶋 勇成, 長谷川稔、 宮川 和彦
    • 学会等名
      第40回日本小児皮膚科学会学術大会
    • 発表場所
      広島県広島市
    • 年月日
      2016-07-02 – 2016-07-03
  • [学会発表] The mechanism of suppressive effects on a food allergy mouse model by 3-methyladenine2016

    • 著者名/発表者名
      Yastumomi M, Kawakita A, Okazaki S,Hayashi H, Murai H, Mayumi M, Ohshima Y
    • 学会等名
      第65回日本アレルギー学会学術大会
    • 発表場所
      東京都千代田区
    • 年月日
      2016-06-17 – 2016-06-19
  • [学会発表] Saliva SP-D may be a biomarker of peripheral airwy inflammation2016

    • 著者名/発表者名
      Murai H, Okazaki S, Hayashi H, Kawakita A, Yasutomi M, Mayumi M, Ohshima Y
    • 学会等名
      第65回日本アレルギー学会学術大会
    • 発表場所
      東京都千代田区
    • 年月日
      2016-06-17 – 2016-06-19
  • [学会発表] 食物アレルギー発症後の皮膚症状が誘発症状の推移に与える影響2016

    • 著者名/発表者名
      河北 亜希子, 林 仁幸子, 村井 宏生, 安冨 素子, 眞弓 光文, 大嶋 勇成
    • 学会等名
      第65回日本アレルギー学会学術大会
    • 発表場所
      東京都千代田区
    • 年月日
      2016-06-17 – 2016-06-19
  • [学会発表] PI3K inhibitor suppressed food allergic symptoms in the mouse model2016

    • 著者名/発表者名
      M.Yasutomi, A.Kawakita, S.Okazaki, H.Hayashi, H.Murai, M.Mayumi, Y.Ohshima.
    • 学会等名
      European Academy of Allergy and Clinical Immunology Congress 2016
    • 発表場所
      Wien, Austria
    • 年月日
      2016-06-12
    • 国際学会

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公開日: 2018-01-16  

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