現在の“遺伝子治療”は何らかの手段で正規の遺伝子の場所に関係なく遺伝子を付加的に導入する方法が大部分であり、変異遺伝子自体を修復する遺伝子修復治療は世界的にも開発途上である。 原発性免疫不全症に対する遺伝子治療はレトロ・レンチウイルスベクターを用いた報告が多数存在するが、治療後に一部で生じたベクターの非特異的な組込みによる発癌が特に問題となっている。また一方、近年、CRISPR-Cas9システムをはじめとする人工ヌクレアーゼを用いた遺伝子変異の修復を行った研究報告もあるが、人工ヌクレアーゼの非特異的なDNAの切断による、非特異的な遺伝子改変が問題となっている。こうした背景から、非特異的な遺伝子改変を抑制したより安全な新規の遺伝子治療法の開発が望まれている。 本研究では、原発性免疫不全症の中で頻度が高い無γグロブリン血症 (XLA)を対象に研究を行う。XLAは、X染色体に存在するBruton Tyrosine Kinase(BTK) 遺伝子の変異によりB細胞系の分化障害を来たす原発性免疫不全症である。本疾患では、造血幹細胞の一部で変異遺伝子を修復し、かつそれが増殖優位性を獲得できれば、分化障害を回復できる可能性がある。 本研究で作製したアデノ随伴ウイルスベクターと人工ヌクレアーゼを用いて、造血幹細胞に対する、遺伝子導入の条件検討を行った。導入を行った細胞の遺伝子配列を確認の上、正常タンパク質の発現を確認した。
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