本研究においては、先天性心疾患術後遠隔期における血行動態を、心臓MRIを用いて撮影された画像から得られる情報をもとに、流体力学の観点から解析することを目的とした。対象となる疾患は、ファロー四徴症、両大血管右室起始症、左心低形成症候群、単心室症などから選定した。方法は、心臓MRI画像で得られる血流の速度情報をソフトウェアを用いて抽出、可視化し、速度ベクトルのばらつきから流体力学的エネルギー損失を算出した。 はじめに、ファロー四徴症や両大血管右室起始症などの術後遠隔期続発症である肺動脈弁閉鎖不全症では、肺動脈弁逆流の程度が重度である方がエネルギー損失は大きく、肺動脈弁置換術を行った後には、エネルギー損失の減少を認めた。すなわち、肺動脈弁閉鎖不全症は、流体力学的観点からもエネルギー効率の低下に関与し、再手術の適応を考える上での指標のひとつとなりうると考えられる。 また、単心室循環症例におけるフォンタン経路でのエネルギー損失は、フォンタン手術のなかでも心房を利用したAPCフォンタン症例の方が、心外導管を用いたExtracardiacフォンタン症例よりもエネルギー損失が大きいことが分かった。心房内では血流は層流とならず、速度ベクトルのばらつきも大きくなるため、エネルギー効率の低下に寄与すると考えられる。この結果は、APCフォンタンからExtracardiacフォンタンへの移行手術を検討する際に、考慮に入れるべき必要がある可能性が示唆された。 このように、心臓MRI画像から流体力学的に血行動態を解析することは、先天性心疾患術後遠隔期に生じる様々な遺残症、続発症に対して個々の再手術適応を考える際に、検討すべき重要な指標のひとつとなりうる可能性が示唆された。
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