研究実績の概要 |
【背景】小児において膵炎は決して稀な疾患ではないが、遺伝性・家族性膵炎の発症率や臨床像については明らかでない。遺伝性・家族性膵炎は小児期から膵炎を繰り返すことで、児および家族のQOLの低下や精神的・経済的な負担をきたすのみならず、将来的な膵癌発症のリスクを50~60倍増加させる。 【目的】本研究では原因の明らかでない膵炎患児において、膵炎関連遺伝子を同定し、的確な診断をつけること、および遺伝性膵炎の小児期からの臨床像を明らかにすることを目的とした。 【方法】原因不明の反復性膵炎患者および慢性膵炎患者の末梢血DNAより、ダイレクトシークエンス法によりPRSS1、SPINK1、CTRCおよびCPA1遺伝子について解析を行った。また、遺伝子変異が同定された症例における家族歴、発症年齢、E(M)RCP異常所見についてアンケート方式で情報収集を行い検討した。 【結果】2016年以前に当研究施設にて解析した膵炎症例の検体および、本研究にて自施設を含めた国内医療機関からの収集検体、計199症例について解析を行い、67症例(33.7%)に遺伝子変異を認めた(PRSS1:16.6%,SPINK1:16.1%,CTRC:1.5%,CPA1:4.0%)。PRSS1変異の内N122R/H変異ではその単独変異で膵炎を発症しており、11/22例(50%)に家族歴を認めた。遺伝子変異を認めた症例における初発年齢中央値は7.0歳(2-15歳)、28例(42%)で膵管拡張・狭窄像や膵石を認めた。 【考察】本研究集団では、34%の症例で遺伝子変異が検出されたが、明らかな家族歴があるにもかかわらず変異が検出できない例もあり、このような家系に対する網羅的遺伝子解析は今後の課題である。小児期における原因不明の膵管の形態学的変化は膵炎関連遺伝子の関与を強く疑う所見の一つと考えられた。
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