研究課題/領域番号 |
16K19672
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
鳴島 円 東京女子医科大学, 医学部, 准講師 (30596177)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 代謝型グルタミン酸受容体 / シナプス / 外側膝状体 / レット症候群 / 発達 / 退行 |
研究実績の概要 |
28年度は代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)の欠損がレット症候群のモデルマウスと同様の表現型を示すことを報告した論文をNeuron誌(Impact Factor 13.97)に発表した(Narushima et al., Neuron 91, 1097-1109, 2016)。 これまで、mGluR1遺伝子欠損(-KO)マウスを用いた解析を行ってきたが、今年度はウィルスベクターを用いて、野生型マウスの外側膝状体ニューロンに特異的なmGluR1の発現抑制、およびmGluR1-KOマウスの外側膝状体ニューロンのmGluR1発現回復がもたらす効果を解析した。従来用いていたmGluR1-KOマウスは網膜を含むその他の領域でもmGluR1が欠失していたが、mGluR1の発現を阻害する短鎖RNAを含むウィルスを使用することにより、ウィルスに感染した外側膝状体ニューロンでのみmGluR1の発現を抑制することができた。また、mGluR1-KOマウスの外側膝状体に、ウィルスによりmGluR1を強制発現させることにより、外側膝状体ニューロンでのみmGluR1の発現を回復させることができた。その結果、網膜-外側膝状体シナプスの維持に外側膝状体ニューロンにおけるmGluR1の発現が必須であることを明らかにした。 MeCP2はマウスを暗室飼育することで生じる網膜-外側膝状体シナプス維持機構の破綻に関わることが報告されている(Noutel et al., 2011)。そこで暗室飼育中にmGluR1を薬理学的に活性化する実験を行ったところ、シナプスの異常な再編成を防ぎ、正常なシナプスを維持することができた。つまり、mGluR1は視覚経験依存的な網膜-外側膝状体シナプスの維持に中心的な役割を果たす分子であり、同様の機能を持つMeCP2と相互作用している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は視覚系および体性感覚系の求心性線維-視床シナプスをモデル系として、mGluR1とMeCP2の関係性を明らかにすることを目的としており、まず第一段階として、視覚系においてmGluR1の欠損とMeCP2の欠損が共通の表現型を示すことを論文として報告することができた。また、分子遺伝学的手法による求心性線維の標識についても、網膜へのトレーサー注入による視神経線維の標識、および分子遺伝学的手法を用いた内側毛帯線維の標識に成功しており、今後はmGluR1-KOマウスやウィルスによるmGluR1の発現阻害を行ったマウスで解析を行う予定である。現在は、mGluR1-KOマウスが体性感覚系の内側毛帯線維-視床VPmシナプスにおいても、発達期および成熟後のシナプス維持に異常をきたすことを示すデータを得て、国内学会で発表を行った。mGluR1の発現時期が外側膝状体とVPmで異なることから、今後これらの脳領域を比較してmGluR1の機能解析を進める予定である。 一方で、28年度に予定していたDNAチップを用いたシナプス維持機構の破綻に関連する分子の探索には着手することができなかったため、進捗状況はおおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
29年度から所属先を異動するため、電気生理学的実験に必要な一部設備を新規に立ち上げる必要があり、実験計画の遅れが予想される。そのため、まずは体性感覚系視床におけるmGluR1の機能解析の早期終了をめざす。またウィルスを用いたmGluR1-KOマウスでのMeCP2発現抑制あるいは過剰発現の実験を行うためには、感覚経験依存的なシナプスの維持機構において、mGluR1とMeCP2のどちらが上流として互いを制御しうるのかを推定する必要があるため、MeCP2発現量のmGluR1-KOマウスと野生型マウス間での比較、あるいは野生型マウスの脳領域間の比較を優先的に行う。28年度までの研究から、同じ感覚系視床であっても外側膝状体とVPmでは発達期におけるmGluR1の発現量に違いがあることがわかったため(Narushima et al., 2016)、2つの領域間で発達の各時期におけるMeCP2の発現を比較することで、mGluR1とMeCP2の関連性について有用なデータが得られることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度は論文を発表することができたが、その際に要求された追加実験や、論文採択後のプレスリリース等の準備のため、研究計画で予定していた実験を遂行できない期間が生じた。そのため当初予定していた物品や研究試料の購入を次年度へ繰り越す必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度より所属先を異動するため、電気生理学的実験に必要な設備を新たに設置する必要があり、繰り越した研究費の一部は顕微鏡や電気生理学的実験用機器の購入など、設備の立ち上げに使用する。また前所属先からの実験動物の移動が飼育基準の違いなどから困難であるため、一部の実験動物の新規購入が必要となる。
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