Pelizaeus-Merzbacher病(PMD)は中枢神経系の先天性大脳白質形成不全症の代表的疾患で、臨床的に生後から重度の精神運動遅滞を呈するが、10歳前後を堺に緩除に運動機能が低下する。この晩発性運動機能低下の原因として二次的神経障害の関与が考えられるが、その病態は全く不明である。我々は本疾患の一次病態である髄鞘形成不全により、無髄鞘状態に起因する神経細胞の異常なエネルギー代謝状態を来たし、これがミトコンドリア機能障害を誘導し、その結果過酸化ストレスによって、神経細胞体の変性が起こる、という仮説を立てた。 本研究の計画はPMDモデルマウスを用いて、以下の3項目について、順次解析を進めていく。①神経細胞の軸索及びミトコンドリアの組織形態学的な変化の解析。②変性神経細胞の免疫組織学及び電気生理的な特徴の解析。③神経細胞のエネルギー代謝及びミトコンドリア機能の解析。 本年度は既に①3週齢PLP1 Tgマウスにおいて、両側大脳一次運動野及び脊髄錐体路、線条体、内包での髄鞘形成不全と軸索の変性を電子顕微鏡で確認できた。②3週齢マウスの脳凍結切片を用いて、変性神経染色Fluoro-Jade C stainingを行った。正常マウス(wild-type)と比べて、PLP1 Tgマウスの脳梁及び内包における神経軸索変性シグナルが増加することが確認された。③3週齢マウスを用いて、聴性脳幹反応 (Auditory brainstem response; ABR)を測定した。ABRの波形について、正常マウス(wild-type)でI波からⅤ波まで検出されるのに対し、PLP1 TgマウスではI波からⅢ波までしか検出できなかった上に、潜時延長が確認された。機序として,脳幹白質の髄鞘形成不全がまだらであることで神経伝導速度にばらつきが生ずるためと考えられている。
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