本研究は妊娠中の胎盤機能低下などによって引き起こされる胎内ストレスが子宮内発育不全や出生後の低身長がどのように引き起こされるかを明らかにするため、近年注目されているオートファジーについて、成長因子シグナルとどう相互作用するかを検討した。オートファジーを変化させる薬剤で成長因子の反応に変化が見られたが、安定性に欠けたため、解析を野生型のマウス及びATG5ノックアウトマウスより樹立された胎児線維芽細胞を用いて行った。無血清または無血清および低酸素で刺激し、インスリン様成長因子によって制御されるAKTのリン酸化状態を評価した。無血清刺激でAKTのリン酸化状態は、ノックアウト細胞で基底状態から亢進していることが認められた。また、無血清及び低酸素刺激では野生型およびノックアウト細胞ともIGF-1刺激によるAKTの反応はほぼ消失していたが、ノックアウト細胞においてAKTのリン酸化は野生型に比して亢進していた。生体での作用を確認するため子宮内発育不全モデルの確立について検討したが、野生型マウスでの両側子宮動脈結紮モデルでの測定では、安定的な結果が得られなかった。いくつかの提唱されているモデルを検証し、その中でも浸透圧ポンプによるトロンボキサンA2類似体投与による子宮内発育不全誘導が安定していることが判明した。野生型同士とATG5ヘテロノックアウトマウス同士を交配し、母体にトロンボキサンA2類似体を浸透圧ポンプにより投与した。新生児マウスを計測したが、野生型とノックアウトマウスでの差は明らかではなかった。以上の結果からオートファジーの欠失により成長因子シグナルの変化が引き起こされ、オートファジーと成長因子で何らかのクローストークが存在することが示唆されたが、生体での効果については明らかにならなかった。今後適切なモデルによる検証が必要と考えられた。
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