研究課題
Fischer344/Jclラットを妊娠、出産させ、子雄ラットを離乳後である生後21から39日までの期間において、鉄量を10%量に制限し、それ以降は十分量を与える鉄欠乏群(ID)と普通食の対照群(CN)の 2群を研究対象とした。行動実験では、8および12週齢のオープンフィールド試験おいて、ID群では総移動距離および辺縁部移動距離の週齢に伴う減少率がCN群より低く、ID群は成獣になってからも多動が残った。13週齢での脳内モノアミン定量では、dopamine(DA)代謝産物である3-MT、HVAがPFC(前頭前皮質)およびNAcc(側坐核)のそれぞれにおいて増加し、中脳腹側ではDAの低下が認められた。一方、NAccおよび中脳腹側ではserotoninの主要代謝産物である5-HIAAが増加していた。RNA-seq法による転写産物(mRNA)の解析では、NAccにおけるReelin遺伝子の発現がID群で有意に減少していた。13週齢での抗synaptophysin抗体を用いた免疫染色では、NAccのシナプス密度がCN群に比してID群で有意に増加していた。PFCのシナプス密度には両群間で有意差がなかった。以上より離乳後の鉄欠乏雄ラットにおいて成獣となってからも多動が残存し、脳内のモノアミンの変化を引き起こした。また、NAcc領域においてReelin遺伝子の転写産物は低下しシナプス密度は増加していることを示した。今回の実験で鉄制限を行った期間は、人間の9か月から2歳に相当し、現在の日本でも存在する離乳期の鉄欠乏性貧血のモデルラットと考えている。乳児期の鉄欠乏によりReelin遺伝子の発現量がエピジェネティックな変化により減少することで不可逆的な変化をもたらし、神経伝達物質やシナプス形成にも影響を与え、成人期にも行動特性が残る一因となることを明らかにしたのではないかと考えている。
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Journal of Nutrition
巻: 150(2) ページ: 212-221
10.1093/jn/nxz237.