(目的)新生児集中治療を要する出生体重1500g未満の極低出生体重児VLBWIでは、重症未熟児貧血や呼吸循環状態の維持、緊急手術などで輸血療法が不可避である。筆者らは、当院NICUに入院したVLBWIを対象とし、前向きに鉄動態モニタリングを行い、出生時から月齢3までに高フェリチン血症 (500ng/mL 以上)を13.6%認め、敗血症と気管支肺異形成の重症化に独立した危険因子であることを見出した。本研究では、モニタリングと同時に採取した保存血清を用いて、鉄制御機構(Hepcidin)、免疫作用 Siderocalinと酸化傷害(8-oxo-dG)を測定し、VLBWIにおける鉄過剰の病態解析を目指す。研究成果により、鉄過剰合併症の重症化抑制や鉄キレート療法の可能性が期待される。 (令和元年度の計画と実績)令和元年度の研究計画では対象児を200例集積することであった。症例数は集積できたため、高フェリチン血症の病態解析を行った。症例の一部をELISA法を用いて、酸化傷害の解析として8-ox-dGの測定を行った。今回の結果は有意ではなかった。 (研究の意義)本研究は前向きに鉄動態をモニタリングと血清保存を同時に行っている。本研究は筆者らがこれまで解明してきたHepcidinによる鉄制御機構とSiderocalinの免疫学的作用の集大成として、鉄過剰状態での免疫作用と酸化傷害を同時に測定する。NICUでは輸血療法を受けた児での鉄動態モニタリングは一般的に行われておらず、現行のガイドラインでも必要性は記載されていない。輸血後鉄過剰の危険因子を明らかにし、敗血症や気管支肺異形成の重症化抑制への新たな治療戦略を見出したい。また、鉄キレート療法による予防効果の可能性を見出し、さらなる臨床研究に結び付けることを期待している。
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