胎児・乳児期の栄養環境は、エピゲノム制御やメタボッリクメモリーとして体内に記憶され、世代を越えて変化を及ぼす(トランスジェネレーション)とされている。多くの清涼飲料水に果糖ぶどう糖液糖などとして含まれる「フルクトース」もトランスジェネレーションが懸念されている食品成分の1つである。本研究では妊娠・授乳期の母親におけるフルクトースの習慣的摂取が児へ及ぼす影響についてマウスを用いて検討した。 仔マウスの疾病発症リスクについて検討したところ、母マウスのフルクトース過剰摂取により離乳時において脂肪蓄積が認められた。また、肝臓の糖・脂質代謝関連遺伝子を解析した結果、出生時に脂肪酸合成遺伝子のFatty acid synthase(Fas)やAcetyl-CoA carboxylase(Acc)のmRNA発現が上昇した。酸化ストレスマーカーのHeme Oxygenase 1(HO-1)も高値を示した。一方、成獣期においては、母仔ともに2世代に渡りフルクトースを過剰摂取することで、脂質合成遺伝子の発現が低下した。 これらの変動は、妊娠期および授乳期の栄養環境に起因していると考えられることから、母乳成分について解析したところ、フルクトース摂取により授乳初期において母乳中タンパク質量が減少することが明らかとなった。さらに、フルクトース摂取は腸内細菌叢にも影響を及ぼすと推測できることから、腸内環境への影響として、マウスの糞便量を測定した結果,フルクトース摂取により成獣期の糞便量が減少した。また、盲腸重量に影響はなかったものの、腸管全長の短縮が認められた。 以上のことより、母親のフルクトース摂取は、母乳成分や腸内環境の変化を介し、児の脂質代謝異常を引き起こす可能性が示された。
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