ミトコンドリアは細胞内エネルギーを産生するオルガネラで、アポトーシス、細胞内カルシウムシグナリングなど、さまざまな細胞応答に関与する。ミトコンドリアに関連する分子は発癌機構においても関与していることが示唆されているが、紫外線発癌における機能についての研究は進んでいない。本研究の目的は、表皮細胞の癌化機構(特に紫外線発癌過程)におけるミトコンドリア融合・分裂関連分子の機能を解明することである。また、これらの分子が皮膚癌治療において新規治療ターゲットになり得るかどうかを検討した。
まず、1)ミトコンドリア融合・分裂関連分子の皮膚悪性腫瘍での発現解析をおこなった。皮膚有棘細胞癌においては、周囲の正常表皮細胞に比べて、Drp1が高発現していた。次に、皮膚癌培養細胞でのミトコンドリア融合・分裂関連分子のノックダウン実験を実施した。Drp1のノックダウンによって、細胞増殖が抑制された。さらに、ヌードマウスを用いたin vivo異種皮下移植モデルでの癌細胞増殖についても検討し、ノックダウンによって腫瘍の増大が抑制された。細胞周期解析ではG2/M期での細胞周期停止が認められた。Drp1阻害剤を用いた治療実験では、Drp1阻害剤投与によって、培養細胞系および生体内での、皮膚有棘細胞癌の増殖抑制を得た。
以上のことから、ミトコンドリア分裂関連分子の中でも、特にDrp1は皮膚有棘細胞癌の細胞分裂・悪性化に関与していることが示唆され、新規治療ターゲットになる可能性があると考えられる。
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