研究課題/領域番号 |
16K19703
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
神林 由美 東北大学, 大学病院, 助教 (50755303)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | RANKL/RANK / M2マクロファージ / 免疫寛容 / アポクリン系腫瘍 |
研究実績の概要 |
本研究では乳がんや乳房外パジェット病などアポクリン系の悪性腫瘍に幅広く発現しているRANKLが腫瘍随伴マクロファージのケモカイン産生能に与える影響を検討した。以前我々は、乳房外パジェット病における腫瘍随伴マクロファージがM2タイプで、実際に腫瘍内でCCL17を産生することを証明している(Kambayashi et al. J Invest Dermatol 2015)。末梢血単球由来のRANK陽性ヒトM2マクロファージを誘導、そのM2マクロファージをRANKLで刺激したのちにDNAマイクロアレイを用いてマクロファージ上のケモカインの変化を網羅的に調べた。M2マクロファージはCCL5とCCL17という制御性T細胞とTh2細胞の遊走に関わるケモカインのmRNAの発現が増加する事を明らかにした。この結果を定量的PCRとELISA法で追試を行い、RANKLがM2マクロファージからのTh2/ 制御性T細胞関連ケモカインを増加させることを確認した。以上より、乳房外パジェット病におけるRANKL/RANK経路は、免疫抑制環境の形成に関与していることを明らかにした。これらの結果は、Experimental Dermatology (2016; IF=2.675)に掲載された。さらに、乳房外パジェット病における表皮ランゲルハンス細胞にRANKが発現していることを確認したのち、ヒトCD34陽性骨髄幹細胞から誘導したランゲルハンス細胞をRANKLで刺激したところ、ランゲルハンス細胞からもCCL17が産生されることが明らかとなった。この結果はBritish Journal of Dermatology (2016: IF= 4.317)に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究において、今年度は我々は乳房外パジェット病の病態を考えるうえで三つの新知見を発表した。一つは、末梢血単球由来のヒトM2マクロファージを用いたマイクロアレイでの検討では、RANKL刺激でM2マクロファージはCCL5とCCL17という制御性T細胞とTh2細胞の遊走に関わるケモカインのみmRNAの発現が増加することを明らかにした。二つ目は、これらのケモカインの発現を定量的PCRとELISA法で追試したところ、遺伝子レベル、タンパクレベルでも有意に発現・産生が増加することがわかった。三つ目は、乳房外パジェット病の病態にRANK陽性の表皮ランゲルハンス細胞が関与することも明らかにした。 また、RANKLが時に鑑別が困難なアポクリン系腫瘍と上皮系細胞の鑑別に使用できるかを調べるために、乳房外パジェット病とパジェット様有棘細胞癌とを比較した。その結果、RANKLは乳房外パジェット病の腫瘍細胞には発現しているが、パジェット様有棘細胞癌の腫瘍細胞には発現しないことがわかった。以上より、時に鑑別が困難なアポクリン系腫瘍と上皮系細胞の鑑別に有効であることを証明した。よって、本年度の研究は、当初の予定を超えるペースで進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
乳房外パジェット病のようなアポクリン系腫瘍における腫瘍免疫環境とM2マクロファージの関係について、今まで立証したin vitroの結果が実際に生体で再現されるかを確認するためアポクリン系腫瘍である乳がんマウスモデルを用いてRANKLとTAMsの関連を検証する。具体的には、乳がん坦癌マウスに抗RANKL抗体製剤を投与、もしくはTAMsを除去するためにクロドロネートを腹腔内に投与しマクロファージを除去したのちに坦癌し、それぞれ腫瘍内のeffector cellとregulatory T cellの比率を調べin vitroで確認したケモカインプロファイルを確認する。さらに、乳がん肺転移マウスモデルを作成し、抗RANKL抗体製剤の腫瘍進展抑制作用について検証する。また、ヒトにおいて他のアポクリン系腫瘍であるアポクリン腺癌の検体を使用し、乳房外パジェット病と同様にRANKL/RANK/TAMs axisが存在するかを検証、さらにヒトサンプルを用いたマイクロアレイでMMPやケモカインプロファイルを網羅的に検証し、アポクリン腺癌の発がんメカニズムを検討する。
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