スフィンゴシン1リン酸(S1P)とは、血漿中に存在する脂質メディエーターの一つで細胞の増殖、分化、免疫、炎症など様々な生理機能に関与している。S1P/S1P受容体シグナルは免疫担当細胞の分化・遊走を制御しており、全身性強皮症において重要な治療標的と考えられている。S1P受容体阻害剤であるFTY720を強皮症モデルマウスである皮膚硬化型慢性GVHD(Scl-cGVHD)マウスに投与したところ、皮膚硬化の改善がみられたと報告されているが、副作用に徐脈性不整脈等がみられる点が問題点である。FTY720の免疫抑制作用は主にS1P1受容体を介して調節されるため、より副作用が少ない新規選択的S1P1受容体阻害薬の臨床応用が望まれる。選択的S1P1受容体阻害剤をScl-cGVHDマウスに投与し、皮膚硬化の改善、線維化抑制効果を検討した。脱毛面積に応じてskin scoreを決め、3日おきに測定したところ、コントロール群と比較して、有意差をもってskin scoreが改善した。また、皮膚および肺の病理組織において、真皮の厚さや膠原線維は薬剤投与により減少していた。また、皮膚における免疫染色およびフローサイトメトリーの結果より、皮膚における炎症細胞浸潤が薬剤投与により有意差をもって減少していた。さらに脾臓における制御性T細胞の増加を認めた。最後に、皮膚におけるサイトカインのmRNAを測定したところ、炎症性サイトカインであるIL-1B IL-6 IL-13が薬投与により有意に減少した。選択的S1P1受容体阻害剤はScl-cGVHDマウス皮膚への免疫担当細胞の浸潤を抑制し、サイトカインの発現低下を促すことによりScl-cGVHDの発症を抑制していることが明らかとなった。以上より強皮症に対する新規選択的S1P1受容体阻害剤の有効性が示唆された。
|