研究課題
汗腺の発汗機能が低下する高齢者を中心に、熱中症患者の増加が社会的問題となっている。そのため、低下した発汗機能の改善を目指し、発汗を促す汗腺の収縮機構を明らかにすることにした。収縮機構を解明するには、汗腺器官の解剖学的構造を理解する必要がある。しかし、汗腺は複雑な3次元構造を持つため、従来の組織学的な2次元形態解析ではその構造が解明できなかった。そこで、3次元構造解析に有用なホールマウント免疫染色法を取り入れ、汗腺器官の解剖学的構造を解明することにした。研究計画・方法に記載の通り、平成28年度は、1) 汗腺コイル領域における導管部と分泌部の立体構造と空間的配置の可視化、2) 導管部と分泌部を構成する細胞の3次元的な形態と配向性の可視化を試みた。まず、基底膜成分であるラミニン-332を用いて汗腺コイル領域の管の最外層のみを可視化したこところ、汗腺の管同士が非常に密接し、3次元的にコンパクトなコイル構造を形成していた。さらに、コイル構造を形成する分泌部と導管部をそれぞれ可視化したところ、導管部の管構造はシンプルに折れ曲がっていたのに対し、分泌部の管構造は折れ曲がっているだけでなく管自体がタオルを絞ったようなネジれた構造を取っていた。続いて、単一細胞レベルの解像度で汗腺コイル構造の構成細胞を可視化したところ、導管部と分泌部で構成している細胞の形状や配向性が異なっていた。興味深いことに、分泌部においては、非常に伸長した形状をとった筋上皮細胞が、分泌腺のネジれ方向に沿って長軸方向に配向していた。以上の結果から、汗腺は長い分泌腺を収縮するため立体的に絡んだ構造を取り、さらに、それを効果的に収縮するために筋上皮細胞が特徴的な形状と配向配置をとることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画(研究目的の「② 研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか」に記載)の通り、平成28年度は発汗収縮に重要な汗腺コイル領域の詳細な3次元構造を解剖学的に解明した。具体的には、汗腺コイル領域における「管の3次元的な折りたたみ構造」と「分泌部と導管部の立体構造とその3次元的分布」を明らかにした。更に、解明した汗腺コイル領域における3次元構造において、分泌部と導管部の特徴的な立体構造を構築する各細胞区画の「3次元的な細胞形態と配向性」を明らかにした。以上のことから、研究は概ね順調に進んでいると判断できる。
前年度までの研究成果により、発汗収縮に重要な汗腺コイル領域の詳細な3次元構造を解剖学的に解明した。平成29年度も当初の計画の通り、平成28年度で解明した汗腺コイル領域の解剖学的情報をもとに、発汗に重要な血管・神経の汗腺における「3次元的配置」と「発汗機能との関連性」を解剖学的に明らかにする予定である。
当該年度において、来年度に向けた予備検討試験を行うための準備を進める予定であったが、その他の業務の関係上で当該準備を行うことができなかったため、当初計画より経費の使用が少なかった。
上述の理由から、当該年度で予定していた経費が来年度分にそのまま上乗せされる。そのため、来年度分まで合わせると当初の計画になると考えられる。
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Household and Personal Care Today
巻: 11 ページ: 39-43
http://www.mandom.co.jp/
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/chemistry/