研究実績の概要 |
皮膚創傷治癒過程において創閉鎖を促進するためには、表皮角化細胞が遊走し肉芽を覆う再上皮化のステップが重要である。その際、創傷断端の表皮角化細胞は細胞間接着を減じ、紡錘形に形を変え遊走する。これは上皮間葉移行(epithelial mesenchymal transition, EMT)に属する現象と考えられる。塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor, bFGF)は皮膚潰瘍における肉芽形成促進作用、血管新生作用を有し、本邦では創傷治癒促進剤として広く使用されている。創傷治癒過程のEMTに対するbFGFの効果をマウス皮膚創傷にて検討した。マウス皮膚に創傷を加え経時的に観察したところ、創傷作成後4日目の創傷断端では、1層の単層上皮が創中央に向かって進み創傷を覆ってゆく治癒過程がみられた。一方bFGFを連日創傷に添加したところ、創傷断端の表皮は重層化し、先端の表皮角化細胞の紡錘形変化が明らかになった。また一部の細胞は、 E-cadherinを減弱させることで細胞間接着から外れ、孤立性に創中央にむけて遊走していた。これらの細胞はcytokerationとvimentinを同時発現していた。それら孤立性に遊走した細胞がフィブリン塊内から肉芽組織表面に着地し、単層上皮として増殖している像も見られた。創傷からRNAを採取しcDNAに変換後EMT関連因子についてPCR arrayを施行したところ、bFGFを投与した創ではTgfβ1, Notch1, Sox10, Pdgfrβ, Snai3, Fzd7, Ctnnb1, Ahnakが増加しており、これらの因子がEMTを促進し創傷治癒を促進する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究で特に注目したEMT関連分子についてin vitroで解析を行う。角化細胞由来培養細胞(HaCaT)を使用し、細胞塊にピペットマンチップで線状創をつけ経時的に観察・細胞採取、scratch migration assayを行う。このモデルに前年度注目した特定のEMT関連分子を細胞へ添加、強制発現、RNAi・阻害剤で抑制し、コントロールと比較する。比較検討する項目は、遊走した細胞数、細胞の形態、細胞骨格(E-Cadherin, N-Cadherin, Vimentin, cytokeratin,β-Catenin, Claudin-1, ZO-1)変化の観察(免疫染色、Western blot、RT-PCR)などを予定している。その後、これまでの検討結果で注目したEMT関連分子をマウス皮膚にフィードバックさせる。マウス皮膚創傷を用いて、EMT誘導・抑制による創傷治癒過程の変化を観察し、最終的にはEMTが表皮再生へ寄与しているか否かの検討を行う。具体的には、創傷治癒過程Wound-Edge KeratinocytesのEMTを誘導させ得るサイトカイン、あるいはその中和抗体をマウス皮膚創傷に直接添加または全身投与し、創傷作成後4日目の組織を採取し、EMTの誘導・抑制を成し得たか確認する。その後肉眼的創閉鎖に至るまでの日数をコントロール群と比較、創傷閉鎖までの計時的な組織採取による免疫組織学的検討にて、EMTが表皮再生に与える影響を解析する。
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