研究課題
アトピー性皮膚炎(AD)の難治性痒みは既存薬が奏功し難く、不眠や就労障害など患者のQuality of lifeを著しく妨げる。乾燥肌やAD病変部の表皮角化細胞では神経反発因子セマフォリン3A(Sema3A)の発現減少が認められ、表皮内神経線維の増生に伴い、起痒刺激の受容増加が認められる。そこで、AD病変部の表皮角化細胞におけるSema3A発現減少のメカニズムをシグナル伝達及び転写制御の観点から解明すると共に、Sema3Aの発現制御に焦点を当てたADの難治性痒み治療薬を開発することを目的とし、研究を行った。平成28年度は、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)を用いて、ヒトSema3Aの発現促進に関与するシグナル伝達経路の解析ならびにSema3Aの遠位エンハンサー領域およびサプレッサー領域のクローニングを試みた。NHEKをカルシウムならびにphorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)で刺激、予想されるシグナル伝達経路の阻害剤を用いて、Sema3Aの発現変動を分子生物学・生化学的に解析した。また、カルシウムやPMAで刺激後、ヒトSema3A遺伝子プロモーター領域に結合する転写因子をクロマチン免疫沈降アッセイで同定した。現在、シグナル伝達系について詳細な検討を行っている。一方、遠位プロモーター領域のクローニングはそのクローニング条件を検討中である。次年度は引き続きSema3Aの発現制御に関与するシグナル伝達系を解析し、プロモーター解析の結果と合わせて学会発表及び論文化する予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究では、NHEKをカルシウムならびにPMAによる刺激や予想されるシグナル伝達経路の阻害剤を用いて、Sema3A発現制御に関わるシグナル伝達経路の一部を明らかにした。並行して、アセトン処理によるドライスキンモデルマウスを作製し、Sema3A発現促進作用を有する候補化合物を塗布する試験を行った。その結果、表皮シートにおけるSema3A mRNAの発現促進と表皮内神経線維数の減少を確認できた。これらの研究成果の一部は、2016年9月に宮城県仙台市で開催された第89回日本生化学会大会で発表した。ほぼ予定通りに研究は進行していると考えられる。
平成28年度の研究成果を踏まえて、Sema3Aの発現制御に関与する転写因子とシグナル伝達系に関して、引き続き解析を進めている。また、AD病変部の表皮角化細胞におけるSema3Aの発現減少メカニズムを解明するため、AD患者及び健常者の皮膚検体を用いて、候補シグナル分子及び転写因子の発現動態を解析する。以上の結果はプロモーター解析の結果と合わせて論文化する予定である。加えて、これらの情報を元にSema3A発現促進剤の探索を行い、最終的に難治性かゆみを治療する創薬展開を目指す。
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