アトピー性皮膚炎(AD)は既存薬が奏功しない激しい痒みをもたらし、不眠など患者のQOLを著しく障害する。難治性痒みの原因の1つに表皮内神経線維の増生による痒み過敏がある。AD病変部は神経反発因子セマフォリン3A (Sema3A)の発現減少が認められ、それにより表皮内で神経線維が増生しやすい環境が生み出されると考えられている。本研究は、AD病変部におけるSema3A発現減少のメカニズムをシグナル伝達及び転写制御の観点から解明すると共に、Sema3A発現促進作用に焦点を当てたADの難治性痒み治療薬の開発を目指すことを目的としている。平成29年度は前年度に引き続き、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)及びシグナル伝達阻害剤を用いて、Sema3Aの発現制御に関与する細胞内シグナル伝達経路の同定を行った。その結果、Sema3Aの発現誘導メカニズムの一部にPKC/MAPK/AP-1が関与することが明らかとなった。核抽出液のWestern Blotにより、カルシウム及びホルボール12-ミリスタート13-アセタート(PMA)刺激でAP-1の核移行が増大することを確認した。クロマチン免疫沈降アッセイでは、Sema3Aの近位プロモーター部位にAP-1が結合することが確認された。また、AD患者及び健常者の皮膚凍結切片を用いた免疫組織化学染色により候補転写因子の局在を解析中である。上記の研究成果については、論文化の準備を進めている。一方、先行研究で同定したSema3A発現促進剤(未発表)をドライスキンモデルマウスの皮膚に塗布する実験では、表皮におけるSema3A発現促進効果と表皮内神経線維の増生抑制効果を確認できた。今後、さらに詳細な解析を進める予定である。
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