統合失調症、自閉症スペクトラム症では大脳皮質の錘体細胞とGABA介在ニューロンのループの機能不全により、安静時において病的な神経同期が生じ、そのために知覚、認知処理時の同期の低下が生じるという神経同期障害仮説がある。本研究では、安静時の脳波を計測し、周波数帯域のパワー値や部位間のコヒーレンスによる機能的結合パターンと、知覚、認知処理時の事象関連電位、認知機能検査との関連について検討した。成人の自閉症スペクトラム症については脳磁図だけしか計測しなかった。脳波、神経心理検査は解析に足る十分な例数を集めることが出来なかったため、健常者と統合失調症患者について検討した。現在得られた成果としては、健常者では安静時のシータ律動のパワー値と、オドボール課題の標的刺激によって惹起されるP300(P3b)成分の振幅値は正の相関が見られたが、統合失調症群では見られなかった。安静時でのシータ波に反映される神経同期は、P300成分に反映される選択的注意・作業記憶の更新に影響することから、安静時の低周波の神経同期は注意定位の準備過程を反映していること示唆され、統合失調症では安静時の神経同期の低下により認知機能の低下に寄与することが示唆された。他方で、安静時のガンマ律動のパワー値について、治療抵抗性統合失調症群で最大で、次に抗精神病薬に反応した患者群、次いで健常者群であった。聴知覚を反映する誘発電位、P50成分や事象関連電位のmismatch negativity、また神経心理検査で評価した各種認知機能については治療抵抗性統合失調症群で最も低下していた。これらのことから、統合失調症ではガンマ律動に反映される大脳皮質の病的な過剰興奮が生じており、高次認知機能の低下、さらには薬物の反応不良性に寄与することが示唆された。
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