研究課題/領域番号 |
16K19747
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
天野 大樹 北海道大学, 薬学研究院, 講師 (00591950)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 内側視索前野 / 腹側被蓋野 / 光遺伝学 / 父性 / 中脳中心灰白質 |
研究実績の概要 |
内側視索前野は養育行動に重要な脳領域であるが、その下流神経回路の機能は不明な点が多い。内側視索前野には様々な細胞種が存在するが、養育行動時に神経活動マーカーc-Fosを発現するGABA作動性神経に焦点を当て、GABA作動性神経にCre遺伝子を発現するvGAT-IRES-Creマウスを用いて検討を行った。 まず内側視索前野のGABA作動性神経細胞に蛍光タンパク質を発現させ、投射先である脳領域を観察した。その結果、以前から養育神経回路に重要と考えられていた腹側被蓋野への投射が見られた。しかし、その投射繊維は腹側被蓋野で収束するよりも寧ろ、その先の中脳中心灰白質腹側部の方向へ投射していた。そこで光感受性イオンチャネルであるチャネルロドプシン(ChR2)を内側視索前野細胞のGABA作動性神経に発現させた後に脳スライスを作成した。パッチクランプ法記録下で青色光を照射したところ、抑制性シナプス後電流が腹側被蓋野および中脳中心灰白質腹側部の細胞において観察された。さらにナトリウム・カリウムイオンチャネル阻害薬を用いた検討から、内側視索前野GABA作動性神経細胞から腹側被蓋野および中脳中心灰白質腹側部へ直接的なシナプス入力が存在することが分かった。 次に、交尾未経験雄マウスの内側視索前野GABA作動性神経細胞から腹側被蓋野および中脳中心灰白質腹側部への神経投射を光刺激した時の子マウスへの行動パターンを観察した。行動試験中の青色光刺激は脳内へ挿入した光ファイバーを介して行った。対照群では子マウスへの攻撃行動が多く見られたが、腹側被蓋野および中脳中心灰白質腹側部いずれの経路の入力繊維を刺激した場合も子マウスへの攻撃行動は大幅に抑制された。 以上の結果は内側視索前野GABA作動性神経が下流神経回路へ神経伝達を行うことで攻撃行動を抑制する機能を持つことを示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
内側視索前野GABA作動性神経から下流への入力するシナプスについて、研究開始前に計画した腹側被蓋野への投射に加え、実験開始後に明らかになった中脳中心灰白質腹側部への投射についても検討を行った。電気生理学実験によりシナプス入力の機能を確認するとともに、行動試験が順調に推移し、光遺伝学的手法を用いることで内側視索前野から発する神経投射を特異的に活性化させたときの行動変化の観察がほぼ完了した。
|
今後の研究の推進方策 |
逆行性トレーサーまたは逆行性に運搬されるウイルスによって腹側被蓋野および中脳中心灰白質へ投射する内側視索前野細胞を可視化するとともに、子供に対する行動が引き金となって発現する神経活動マーカーc-Fosタンパク質を免疫染色することによって二重染色される細胞の割合を評価する。これにより腹側被蓋野および中脳中心灰白質へ投射する内側視索前野細胞の生物学的意義を調べる。 また内側視索前野から投射を受ける腹側被蓋野および中脳中心灰白質の細胞種を評価するために、GABA作動性、非GABA作動性神経からパッチクランプ記録を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
日本薬理学会年会が国際学会との共催で行われることとなり、例年と異なり次年度の7月に開催される。これに参加するために使用する。また研究成果について論文投稿の準備中であり、発生が見込まれる論文掲載料や査読者からの指摘に対する追加実験を遂行するために使用する。
|