これまでに内側視索前野から腹側被蓋野および中脳中心灰白質への入力を活性化することで交尾未経験オスマウスの仔マウスに対する攻撃行動が阻害されることを示している。本年度は内側視索前野からの投射先領域における神経活動を評価するためにc-Fosタンパク質の免疫染色を試みたが、定量解析レベルの染色像を得ることができなかった。また内側視索前野から投射する細胞に対する選択性の有無について検討を加えた。vGAT-IRES-Creマウスの内側視索前野に光感受性イオンチャネル・チャネルロドプシン(および蛍光タンパク質)、中脳中心灰白質へ蛍光タンパク質をCre依存的に発現させた。待機期間後に脳スライスを作成し、蛍光タンパク質を発現する細胞体からパッチクランプ法による記録を行った。青色光照射を行うことで、内側視索前野由来のシナプス末端を興奮させることが可能である。その結果、中脳中心灰白質のGABA作動性細胞が内側視索前野からGABA作動性入力を受けていることが示唆された。またこのようなGABA作動性細胞はregular型またはburst型の活動電位発火パターンを示していた。 さらに腹側被蓋野の下流神経回路の解析を行った。トレーサー実験結果から、仔マウスに対する攻撃行動に関与する分界条床核菱形核へ腹側被蓋野からチロシン水酸化酵素陽性神経が高密度に投射することが示された。in vivoマイクロダイアリシス法による検討により分界条床核菱形核ではドパミン遊離は確認された一方でノルアドレナリンの遊離はほとんど見られなかった。次に分界条床核菱形核細胞からパッチクランプ記録を行い、ドパミン10μMを付加したところ、sag陰性細胞で特異的に興奮性シナプス伝達効率が低下することがわかった。メカニズムを調べたところ、シナプス前におけるグルタミン酸放出確率がα2受容体の活性化を介して抑制されている可能性が示された。
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