研究課題
ドパミン過感受性精神病(DSP)モデルラット線条体中のグリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)は投与直後で変化はなかったが、対照群やDSPを形成しなかったnonDSP群と比較して、断薬1週間後で有意に低下していた。このことからDSPではDRD2の増加に対してGSK3シグナルが代償性に低下していると考えられた。更に、グルタミン酸系シグナル異常がドパミン過感受性を引き起こすことも知られており、DSPモデルラットの脳内グルタミン酸系シグナルについても調査した。その結果、断薬1週間後のDSPモデルラットでは線条体中のグルタミン酸/GABA比が有意に低下していた。一方で、nonDSPラットでは線条体中のN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体2Bの発現が減少していた。これらの結果から、①DSPではドパミン過感受性に対して代償性にグルタミン酸シグナルが減弱している、②nonDSPではNMDA2B受容体の低下が、DSPの主症状の一つである遅発性ジスキネジア形成の予防効果があると推測された。しかしながら、NMDA2B受容体の機能を鑑みると、nonDSPではNMDA受容体機能の低下により治療抵抗性となっている可能性があると考えられた。当初の仮説とは異なりGSK3はDSPに対して寧ろ抑制的に関与していることがわかったため、本年度はDSPの新しい治療戦略として電気けいれん療法(ES)を行い、その効果を検証した。その結果、ESによりDSPで代償性に増加していたD2受容体が低下し、異常行動量も改善傾向にあった。本研究により、我が国に多いDSPのより詳細な機序が判明したことに加えて、新しい治療戦略としてDSPに対するESの治療効果も検討でき、精神科臨床につながる有意義な研究になったと考えている。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Psychopharmacology (Berl)
巻: Oct;234(20) ページ: 3027-3036
10.1007/s00213-017-4695-5.