研究実績の概要 |
うつ様行動と脳糖代謝・血流異常の関連性を探索するモデルとして、初年度は強制水泳モデルを用い、脳糖代謝には18F-FDG、脳血流には123I-IMPを投与して比較検討した。その結果、強制水泳群での18F-FDGの取り込み率は前頭前野(0.86±0.20%ID/g, p<0.01)、視床 (0.77±0.17%ID/g, p<0.05)と有意な低下を認め、海馬、小脳では低下傾向であった。123I-IMPの取り込み率には有意差を認めなかった。このことから強制水泳によるストレス負荷が脳糖代謝の低下を伴う脳血流-糖代謝不均衡を誘導することを示し、Acta Neuropsychiatrica誌に発表した。一方、強制水泳は低体温と激しい運動負荷を伴う高強度急性ストレスであり、上記結果も一時的である可能性も指摘された。そこで、ヒトの抑うつ状態に類似する低強度慢性ストレス下での検討を進めた。最終年度はうつ様行動の発現と脳糖代謝異常が報告されているFmr1遺伝子発現制御マウスモデルおよびメチル化CpG結合蛋白2(Mecp2)発現制御マウスモデルを選定し、全自動マウス集団飼育型行動試験装置IntelliCageを用い、低強度慢性ストレスである新奇環境を負荷としてうつ様行動の評価を行った。その結果、脳糖代謝亢進型のFmr1発現制御モデルでは探索行動の減少(F(1, 16)=8.031; p<0.05)を、脳糖代謝抑制型のMecp2発現制御モデルでは増加傾向(F(1, 16)=4.092; p=0.06)を認めた。以上の結果から、強制水泳のような高強度急性ストレス負荷では脳糖代謝の低下が誘導され、新奇環境のような低強度慢性ストレス負荷では脳糖代謝亢進もしくは抑制モデルでうつ様行動が正反対に現れることを突き止めた。すなわち、強度や負荷時間に関わらずストレス反応に脳糖代謝が重要である可能性を見出した。
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