研究課題
1.症例数を増やすために、引き続き死後脳の収集を行った。その上で、統合失調症死後脳の上側頭回において、正常脳とのmyelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG)の形態学的差異を神経病理学的に検討した。罹病期間、薬剤などの臨床情報も収集・解析し、その結果、罹病期間が長期に及ぶ統合失調症の上側頭回皮質中間層において、MOGの分布が低下していること、さらに、皮質第Ⅲ層で、神経線維ごとのMOGの発現が減少していることを明らかとした。これらの所見は、抗精神病薬の薬剤量やpost-mortem intervalと関連はなく、統合失調症の進行性の脳病態(長期罹患)と関係している可能性が示唆された。海馬CA3においても同様の所見を認めたが、下頭頂小葉では認められず、この変化の部位特異性が示唆された。上側頭回に関してはこの領域が精神症状に関連することを、器質的な要因を基盤に精神症状を生じた症例で検討し、症例報告として報告した。2.MOGの分布の神経病理学的検討を、発症に強く関与する稀なゲノム変異を同定したヒト死後脳(カルボニルストレス系ゲノム変異、 22q11.2 欠失、MBD5欠失を伴う統合失調症死後脳)及びDISC1KO マウスにおいても実施した。その結果、22q11.2欠失統合失調症死後脳の上側頭回、海馬CA3において、他の統合失調症と同様のMOG分布所見、神経線維ごとのMOGの発現が減少している所見を観察した。このことにより、22q11.2欠失が関与する病因・病態が統合失調症の同部位のオリゴデンドロサイト/ミエリン病態に関連している可能性が推量された。また、DISC1KOマウスに関しては、統合失調症の病態とDISC1との関連をより明確にするために、カテコラミン神経系、GABA神経系等も検討し、報告した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、オリゴデンドロサイト/ミエリンの異常が統合失調症の病態に関与していることを、オリゴデンドロサイト/ミエリンの形態学的所見を免疫組織学的、神経病理学的に観察することによって、明らかにすることにある。また、そのために、一般的な統合失調症死後脳で検討を行うだけでなく、発症に強く関与するゲノム変異を同定したヒト死後脳や遺伝子改変モデル動物でも、統合失調症死後脳と同様の所見が観察されるか適時参照することを方法論の一つとしている。平成28年度は、myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG)の形態学的変化を統合失調症死後脳で免疫組織学的、神経病理学的に検討し、さらにこれを統合失調症に強く関与するゲノム変異を同定したヒト死後脳や遺伝子改変モデル動物でも、検討することを計画していた。実際に、一般的な統合失調症死後脳、すなわち、稀なゲノム変異のない統合失調症死後脳において、正常対照死後脳とは異なったMOGの形態学的所見(上側頭回、海馬CA3におけるMOGの分布・発現の変化)を得て、さらに、その部位特異性、疾患との関係性(長期罹患との関係)を確認し、この所見が統合失調症の病因・病態を反映している可能性を明らかにした。また、統合失調症に強く関与するゲノム変異を同定したヒト死後脳や遺伝子改変モデル動物でも、同様の検討を行い、22q.11.2統合失調症死後脳において、同様のMOGの分布・発現の変化を確認し、22q11.2欠失が関与する病因・病態が統合失調症の同部位のオリゴデンドロサイト/ミエリン病態に関連している可能性を明らかにした。症例数増加のための死後脳収集および収集脳の一般病理学的所見の検討も適宜行っており、これらのことから、概ね順調に進展していると考えられる。
平成28年度から継続して、死後脳の収集を行い、例数を増やすことを継続する。新たに収集を行った死後脳は、適宜、神経変性疾患の有無の検討を行う。その上で、myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG) 以外のオリゴデンドロサイト/ミエリン関連タンパクの免疫組織化学染色を行い、各々のオリゴデンドロサイト/ミエリン関連タンパクの形態学的所見(分布、面積、数、密度など)及び、各タンパク間の形態学的差異を神経病理学的に検討する。大きな研究計画の変更はないが、平成28年度の結果を受け、抗 MOG 抗体を用いた検討で、より病態に関連すると考えられた上側頭回などの脳領域、より病態に関連すると推量されるオリゴデンドロサイト/ミエリン関連タンパク(22q11.2欠失統合失調に関連するオリゴデンドロサイト/ミエリン関連タンパク:RTN4、RTN4Rなど)に着目し、免疫組織化学染色、形態学的解析を行う。発症に強く関与する稀なゲノム変異を同定したヒト死後脳(カルボニルストレス系ゲノム変異や 22q11.2 欠失、MBD5欠失を伴う統合失調症死後脳など)や遺伝子改変モデル動物(DISC1KO マウスなど)においても、同様に、MOG 以外のオリゴデンドロサイト/ミエリン関連タンパクの免疫組織化学染色を行い、神経病理学的検討、形態学的解析を行う。モデル動物における検討の意義は、オリゴデンドロサイト/ミエリンの形態学的所見と病態との関連をより明確にすることに加え、適時、モデル動物での形態学的所見を参照することで、統合失調症死後脳で疾患に特異的な所見の観察を行いやすくすることにある。統合失調症死後脳で特徴的な形態学的所見を見出すことが困難な際は、モデル動物での解析をまず行い、その結果を参考に、同様の所見を統合失調症死後脳で検索する方策をとる。
ヒト死後脳の新規症例が年度後半に集中し、組織管理に必要となる消耗品費を次年度に繰り越すこととした。
脳組織管理の消耗品費として使用する。
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