統合失調症のオリゴデンドロサイト/ミエリン病態を明確化するために、死後脳を対象とした神経病理学的な検討を行い、統合失調症の長期罹患例の上側頭回では、myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG)の発現やMOG陽性線維状構造物の厚みが減少していることを明らかとした。上側頭回は神経画像研究で、進行性の形態変化が報告されており、これらは疾患病態を反映する観察所見と考えられた。海馬CA3においても、同様の所見が認められた。 さらに、分子生物学的な背景との関連性をより明確にするために、稀なゲノム変異を伴う統合失調症死後脳で検討を行った。22q11.2欠失を伴う統合失調症においてもMOGの発現・構造物の厚みの減少が観察された。また、白質Nogo-A陽性オリゴデンドロサイト(OLG)密度が、稀なゲノム変異のない統合失調症と比較して、より減少していた。22q11.2欠失領域はNogo-Aの受容体を包含しており、欠失領域との関連が強く推量された。 カルボニルストレス系ゲノム変異を伴う統合失調症では、KB染色でミエリンの密度が低下し、白質のNogo-A陽性OLG密度が減少していた。白質には終末糖化産物が豊富に蓄積し、カルボニルストレス亢進とオリゴデンドロサイト/ミエリン病態との関連が推量された。いずれの稀な変異を伴う死後脳も、モデル動物で確認していたカテコラミン神経系、GABA神経系の形態変化が観察された。 統合失調症死後脳においてオリゴデンドロサイト/ミエリンの変化を実際に観察し、さらに稀なゲノム変異を伴う死後脳でも、オリゴデンドロサイト/ミエリンに加え、カテコラミン神経系、GABA神経系の変化を共通所見として観察することで、オリゴデンドロサイト/ミエリンが統合失調症の病態に関連することを神経病理学的に確認した。
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