統合失調症の発症メカニズムとして、発症リスクゲノム変異が引き起こす複雑な分子ネットワーク異常が予想される。しかし、リスクゲノム変異は多様で、未だ統一的な発症メカニズムは明らかにされていない。この状況を打破するため本研究では、均一なゲノム変異の下で統合失調症の分子病態の解明を目指す。特に統合失調症の最も高い発症リスクゲノム変異である染色体22q11.2欠失を標的とし、患者由来iPS細胞を用いて解析をおこなった。 最終年度では、前年度に引き続き、健常者3例(健常者群)と22q11.2欠失症候群患者(22q11.2DS群)由来のiPS細胞をドパミン神経細胞へと誘導し、解析をおこなった。 分子病態を明らかにするため、健常者群と22q11.2DS群で半定量的プロテオーム解析を実施した。その結果、22q11.2DS群で発現変動するタンパク質は"Protein processing in endoplasmic reticulum"のパスウェイに最も集積していた。本結果は、これまでに見出していた、22q11.2DS群における「小胞体ストレスに対する耐性低下」という表現型と一致していた。さらに、22q11.2DS群では、小胞体ストレス関連シグナルの発現異常が生じていること、そして、それに伴ったオルガネラ異常(フィロポディアやラメリポディア形態異常)も生じていること、を見出した。22q11.2欠失による分子病態の一端として、ドパミン神経細胞では小胞体ストレス関連シグナルが関与していることが示唆された。
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