研究課題
うつ病は、我々にとって大変身近な疾患である。しかし、既存の抗うつ薬による薬物療法では、臨床効果の出現には数週間を要し、また、薬剤抵抗性のうつ病患者も多いという問題点がある。一方、運動にはうつ病の予防・改善効果があり、これまでの我々の研究成果から、運動による海馬神経新生の促進効果や抗うつ効果にセロトニン3型受容体(5-HT3受容体)が必須の働きをしていることが明らかとなっていた。今回、我々は、5-HT3受容体を介する「運動の抗うつメカニズム」に着目して、うつ病の病態および治療効果の機序の解明を行い、新たなうつ病治療基盤の確立を目指して研究を行った。野生型マウスに5-HT3受容体アゴニストを投与し、うつ行動を解析すると、投与したアゴニストの濃度依存的に抗うつ効果を認めた。既存の代表的抗うつ薬は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)である。我々は、代表的なSSRIであるFluoxetineとの比較により、5-HT3受容体アゴニストは、Fluoxetineとは異なるメカニズムで抗うつ効果をもたらすことを、詳細な行動解析により明らかにした。また、5-HT3受容体アゴニストが海馬神経新生に及ぼす影響を組織学的に検討した。そして、5-HT3受容体アゴニストは、投与早期の段階で、海馬神経新生の増加をもたらし、それはFluoxetineとは異なる新たなメカニズムであることを見出した。さらに、海馬歯状回における組織学的解析により、5-HT3受容体と神経栄養因子IGF1が同一ニューロンに発現していることを新たに見出した。そして、in vivoマイクロダイアリシス法と海馬神経新生の詳細な解析により、5-HT3受容体は、海馬のIGF1分泌量を制御し、神経新生をコントロールしていることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
5-HT3受容体の働きに着目し、マウスを用いたうつ行動の解析や、海馬の神経新生に関する詳細な組織学的解析を展開した。既存の代表的な抗うつ薬SSRIであるFluoxetineと比較して行動解析、組織学的解析を行うことによって、5-HT3受容体を介するシグナルが、新たな「抗うつメカニズム」として作用する可能性が示唆された。さらに、神経栄養因子との関連も解析を進めており、in vivoマイクロダイアリシスなどの手法を用いて、5-HT3受容体を介する海馬神経新生のメカニズムの分子レベルでの詳細が明らかとなりつつあり、順調に研究を進めている。現在のところ、これまで報告されていない、5-HT3受容体と神経栄養因子との関連を見出すことができたことは、大変興味深い結果であり、当初の計画以上の進展が見られたと考えられる。
これまでの実験・研究を続行しつつ、以下の実験を開始し、進めていく。新たな遺伝子改変マウスを導入し、マウスのうつ行動に関して、行動解析と海馬神経新生の組織学的解析を進める。さらに、うつ病のモデルマウスの作製や、5-HT3受容体ノックアウトマウスを用いた解析により、神経栄養因子に着目した海馬神経新生のメカニズムの解析を行う。また、5-HT3受容体アゴニストを投与した時の、海馬歯状回での遺伝子発現変化を定量的に解析し、他の神経栄養因子やシナプス関連分子と、抗うつ効果との関連について解析を進めていく。
①2016年度 第7回産と学をつなぐSENRIの会 発表・講演「うつ病とPTSDの新規治療基盤確立を目指した研究」2017年1月13日 千里ライフサイエンスセンタービル
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