内因性精神病については、その病態について解明するべく昨今様々な観点からの研究が進められている。しかし、診断および治療反応性の評価の一助となるような客観的指標はいまだに確立されていないのが現状である。我々はこれまでに神経生理学的方法により内因性精神病の病態解明に努めてきた。その中でも、被験者への侵襲性が低く簡便な検査である聴性定常反応 auditory steady state (以下ASSRと略)を用いた研究を継続して行っている。我々は先行研究において、統合失調症、双極性障害及び単極性うつ病を対象にASSRを測定し、それぞれの疾患について健常対照者と比較した相違を検討してきた。その結果、統合失調症及び双極性障害ではASSR反応が健常対照者と比べて低下していたが、単極性うつ病ではそのような低下所見は認めず反応が保たれているとの結果を得た。これらの所見は精神疾患の病態との関連が考えられたが、その相違を説明するにはまだ不十分と思われた。 我々の研究室の平野らは、ASSR測定中のベースラインの反応に着目し解析を行っており、統合失調症者ではベースラインの反応が健常対照者と比して増大していることを報告している。ベースラインの反応を比較検討した先行研究は、我々が知る限りでは統合失調症を対象としたものしか報告されていない。 そこで今回我々は、これまで行ってきたASSR解析に加えて、ベースラインのパワーについて双極性障害・単極性うつ病も対象として健常対照者と比較検討してみることとした。 その結果、ASSR測定中のベースラインのパワーは、双極性障害では20 Hz刺激時において健常対照者に比べて増大しており、単極性うつ病では80 Hz刺激時に健常対照者と比べて低下している傾向を認めた。
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