幻聴は統合失調症者の50-80%に出現する主症状の1つであり、社会生活機能障害と強い関連を示す事が報告されている。さらに、幻聴に焦点を当てた治療により社会機能と生活の質(QOL)の改善が得られるとの報告もあり、幻聴発生のメカニズムの解明と幻聴に対する客観的指標の開発は、統合失調症者の社会機能とQOLの改善に大きく貢献すると考えられる。本研究の目的は、幻聴の開始、終了に伴う神経活動の即時的変化を全頭型脳磁計とfMRIを用いることで、高い空間および時間分解能をもって脳構造・機能を評価することにある。 具体的には、健常者25名、幻聴を伴わない統合失調症者25名、幻聴を伴う統合失調症者13名について脳磁図の記録を行った。脳磁図記録は3群共に音刺激(40Hzクリック音)に対する反応を記録し、さらに幻聴を伴う統合失調症者については幻聴中の自発脳活動の記録を行った。機能的MRIについては、予定していた1.5T MRIから他施設での更に高解像度の3.0テスラMRIへと変更を行った為、セッティングに時間を要し、現時点では健常者5名の記録が終了している。 現時点での解析では、幻聴を伴う統合失調症者での幻聴オンオフに関わる脳活動について、幻聴オン-オフのセクションが解析可能な割合で出現した8名について解析を行い、40Hz帯域の聴性定常反応(ASSR)の200ミリ前後で幻聴の有無による変化を認めた。このことから、幻聴を伴う統合失調症者では幻聴中の音声処理に関わるガンマ帯域活動の変化が現れ、ASSRがその指標となり得る可能性が示唆された。今後は更に対象者を増やし、fMRIを伴った詳細な解析を行うことで、幻聴の神経学的基盤の解明につながることが期待できる。
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