統合失調症治療において、神経伝達物質ドパミンに拮抗作用のある抗精神病薬の有効性が確かめられている。有害事象としてパーキンソニズムが問題になるが、その程度には個体差がある。本研究は、シナプトタグミンファミリーの遺伝子変異解析を通して、薬剤性パーキンソニズムにおける個体差発生機構の解明を試みることを目的としてしている。統合失調症患者で、薬剤性ジストニア を認めた5症例において、Synaptotagmin Ⅰ 遺伝子の上流領域を含めた全エクソンのリシークエンシング解析を行った。そこで、5症例のうち1症例において、Synaptotagmin Ⅰ 遺伝子の intron 4 にヘテロ接合性に新規変異 c.-18+47G/A を認めた。同変異はこれまで SNP としての報告はない。健常者50人(100アリル)においてリシークエンシング解析を行ったが、同部位の変異は認めなかった。同部位の変異によりスプライシング異常を来たし、神経伝達物質に何らかの影響が加わった結果、抗精神病薬による薬剤性ジストニアが発症した可能性が考えられた。これまで、cytochrome P450 による代謝における遺伝子多型により、薬の投与に対する有害事象の個体差が生じることが知られていた。その他、薬物トランスポーターに起因した個体差についても研究されている。今回の研究で、プレシナプスの神経伝達物質放出過程における個体差が、抗精神病薬の有害事象の個体差に影響する可能性が示唆された。また、解析を進めていく中で、統合失調症症状を呈した 22q11.2 欠失症候群患者の2症例において、抗精神病薬による薬剤性パーキンソニズムに違いを認めた。
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