研究課題/領域番号 |
16K19776
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
岩原 直敏 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (00613085)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / ミクログリア / SOCS3 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病をはじめとする多くの神経変性疾患の最も強力な危険因子は加齢である。しかしなぜ加齢により発症率が上昇するかその機序は未だ明らかになっていない。近年の研究から加齢に伴いアルツハイマー病が発症する以前にミクログリアの機能が変化し、アミロイドβペプチドのクリアランス能の低下や慢性炎症が生じることがわかりつつある。本研究では免疫細胞の機能を規定する重要な因子であるSOCS3分子の役割に着目し、SOCS3発現量を調整することによってミクログリアの機能を改善する新規治療法について検討を行った。 ミクログリアの機能制御について解析を行ったところ、アルツハイマー病モデルマウスのミクログリアにおいて、老人斑の増加とともに炎症性サイトカインの発現だけではなく抗炎症因子であるSOCS3の発現が増強することを確認した。そこで初代培養ミクログリアを用い検討したところ、SOCS3はアミロイドβペプチドによる刺激で発現が誘導されることがわかった。またアミロイドβペプチドによって誘導されたSOCS3は、炎症性サイトカインの一つであるIL6の発現を負に制御している可能性が示された。SOCS3はアルツハイマー病の炎症制御において重要な役割を担っており、ミクログリアの機能制御を介した治療法を開発する上で重要な標的分子であると考えられた。 アミロイドβペプチドのクリアランスへの関与については、「SOCS3の発現上昇によりアミロイドβペプチドの取り込みを阻害するCD33の分解亢進がおこる」と仮説を立てた。しかし、マウスCD33蛋白の検出が市販抗体および作成した抗体でもできておらず、上記仮説の証明は困難な状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度はアルツハイマー病モデルにおけるミクログリアでのSOCS3の発現の時間経過を解析し、高齢マウスでは当初の予想通り発現量が低下することを突き止めた。また、ミクログリアのSOCS3がIL6の産生を抑制することにより抗炎症作用を示す可能性を示した。SOCS3発現量の経時変化ならびに抗炎症作用について解析を終えたことから、当該年度の研究目標は概ね達成したと考える。この成果はJournal of Alzheimer's Disease誌に受理された(J Alzheimers Dis. 2017;55(3):1235-1247.)。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度はSOCS3とアミロイドβペプチドのクリアランス能との関連を明らかにするとともに、SOCS3を標的としたアルツハイマー病の治療戦略について研究を進めていく。 CD33を介した証明は上記に記載の通り困難であると予想される。一方でSOCS3を標的とした治療法として、間葉系幹細胞の培養上精を用いたところ、株細胞ミクログリアにおいてSOCS3の発現が上昇することがわかった。今年度は間葉系幹細胞の培養上精がSOCS3を標的としたアルツハイマー病の治療薬として有用かを確認するため、in vitroの系を中心に用いて解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はミクログリアによるアミロイドβペプチドの貪食能力の解析に、ELISA法を用いることを検討していたが、ペプチドの性質上プレートへの接着が強く適さないことが判明した。そのためFACSでの解析に変更し、実験試薬としてアミロイドβペプチドーELISA kitの使用が予定よりも少なくなったため、余剰金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
H30年度以降に予定していた有効薬剤のスクリーニング候補として、既に間葉系幹細胞の培養上精が有用であることをつきとめた。貪食能力の解析と並行して間葉系幹細胞による治療介入の効果についても主にin vitroの系を用い解析を進める。
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