研究課題
近年アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患ににおいて,慢性炎症が病態の悪化に寄与することが報告されている.神経変性疾患において,この過剰な炎症を制御することによって進行が抑制されることが期待されている.炎症抑制因子であるSOCS3は,マクロファージなどの免疫細胞において,過剰な炎症性サイトカインの産生を抑制し,多くの炎症性疾患において病態を改善する改善することが知られている.これまでに我々は,脳内の免疫細胞であるミクログリアにおいてもSOCS3がアルツハイマー病などの病的な状態において発現が増え,IL6などの炎症性サイトカインの産生を抑制することを報告した(J Alzheimers Dis. 2017; 55(3):1235-1247.).一方でSOCS3はミクログリアによるアミロイドβタンパクの貪食/除去を抑制するCD33の分解を促進することが報告されている.そこで,ミクログリアにおけるSOCS3の発現を抑制したところ,CD33の発現量が増加することが確認された.一方で,SOCS3の発現抑制による貪食の抑制ならびにCD33の発現抑制による,貪食の亢進は確認されなかった.この結果はCD33の構造がヒトとマウスで大きく異なることが原因と考えられた.そこで,マウスミクログリアにおいてアミロイドβの貪食/除去に関与する受容体の検討を改めて行なった.その結果,従来より貪食に関与することが報告されている,Toll like receptor 4 (TLR4)およびCD14がアミロイドβの取り込みにおいて共役して働いていることを見出した.また,これらの分子による細胞内への取り込みにはクラスリン依存性のエンドサイトーシスが重要であることを確認した(JAlzheimers Dis. 2019;68(1):323-337.).今後はこれらの分子を標的とした治療法の検索を行う予定である.
3: やや遅れている
炎症の制御においてSOCS3が重要であることを突き止めたが,アミロイドβの除去においてはマウスを用いた検討では困難であった.そこで本年度はアミロイドβ除去のためのtargetとなる分子を再度検討し,TLR4/CD14/Clathrinが標的になりうることを見出した.標的分子の再度の検討に時間を要したため,当初の予定よりやや遅れた状況となっている.
これまでにアルツハイマー病に対する間葉系幹細胞移植治療の検討を行い,前述したアミロイドβを認識する受容体の一部に変化が生じることを確認している.現在これらの治療法による作用機序の解明を,ミクログリアの機能制御に着目し進めている.
次年度使用額が生じた理由として2点あげられる.まずは,予定していた国際学会への出席が私的理由により取りやめたため旅費が生じなかった.また,培養系でのアミロイドβ量の測定を,ELISA法からFACS法に変更したことにより,より安価かつ高感度にて実施できるようになったことにより,本年度の使用額が予定より少なかった.来年度は,動物モデルでの検討が中心となるため,従来同様にELISA法でも検討が必要になるため,物品購入費用が必要となる.
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Journal of Alzheimer's Disease
巻: 68 ページ: 323~337
10.3233/JAD-180904
Journal of Alzheimer's disease
巻: 67 ページ: 1079-1087
10.3233/JAD-180985.