アルツハイマー病(AD)は,認知症の最も多くを占める神経変性疾患であり,病理学的にアミロイドβ蛋白(Aβ)を特徴とする.Aβの蓄積や慢性炎症は神経変性を加速させAD病態を進行させる.我々は,Aβの除去ならびに炎症に関わるミクログリアに着目し検討をおこなった.ADマウスのミクログリアでは,Aβを認識し貪食を促すCD14/TLR4受容体の発現が病態の進行とともに増加した.また,CD14/TLR4受容体がAβを取り込む際にはクラスリンを介したエンドサイトーシスが関わることを突き止めた.一方で,ADモデルマウスのミクログリアでは炎症制御因子であるSOCS3の発現が促進し炎症性サイトカインのIL6の発現が抑制されているが,進行に伴いこの制御機構が機能しなくなることを突き止めた.この結果からADでは病態の進行に伴いミクログリアの性質が変化し,病態を修飾すると推測された.そこで我々はガランタミンまたは間葉系幹細胞移植により,ミクログリアの性質が変化し,ADの病態を改善するかを検討した.その結果,病態の初期よりガランタミンを投与したADモデルマウスでは,ミクログリアによる不溶性のAβの取り込みが促進しAβの蓄積が減少し,炎症性サイトカインの産生も抑制されることが確認された.また間葉系幹細胞移植を行なったADモデルマウスでは,ミクログリアのCD14の発現が増加し,可溶性のAβの取り込みが促進されることが確認された.以上の結果より,この二つの治療法は異なった機序によりミクログリアによるAβ除去能力を促進し,ADの病態の進行を抑制する可能性が示された.
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