進行性に認知機能低下をきたす統合失調症において、近年オキシトシン点鼻薬による治療が患者の社会機能、表情認知、臭覚識別機能を改善させるという報告がある。一方で、自動的聴覚識別機能を反映するミスマッチ陰性電位(MMN)は、この疾患の認知機能低下を鋭敏に反映することが知られており、本研究の目的はオキシトシン点鼻薬が聴覚識別機能も改善させるかどうかを明らかにすることにある。 そこで、本研究ではオキシトシン点鼻薬とプラセボの点鼻薬の投与前後のMMNを、健常者および統合失調症患者で測定し、点鼻薬による聴覚識別反応の変化をそれぞれ比較した。 初年度では、主に健常者を対象にして、オキシトシン点鼻前後の事象関連電位(ERP)測定を行った。 40名の対象者がオキシトシン投与群とプラセボ投与群に無作為に割り付けられ、点鼻薬の投与直前・直後に持続長変化オッドボール課題によるERP測定が行われた。結果、オキシトシン投与群では、プラセボに比較して投与後のMMNの潜時が有意に短縮していた。振幅については、オキシトシン投与群とプラセボ投与群に有意な差がみられなかった。これからの結果から、オキシトシン点鼻治療薬が聴覚識別反応を促進的に作用する可能性が示唆された。 平成30年度以降には、主に統合失調症患者を対象にして、健常者と同様の検査を行った。結果は、健常者においてみられてオキシトシン点鼻薬のMMN潜時短縮の効果は、14名に施行された統合失調症においてはみられなかった。
|