研究実績の概要 |
バルプロ酸ナトリウム(VPA)は、抗てんかん薬として治療に頻用されているが、妊娠中の服薬において、出生児への悪影響が指摘されている。しかし、服薬を中断することは、てんかん発作の再発を誘発し、中断は容易ではない。そこで本研究では、より安全なVPA服薬方法の追求とその作用機序の解明を目的として、ratにVPA投与し、行動解析、神経病理解析、エピジェネティクス解析を行った。 Wister ratにおいて、催奇形性限界とされる妊娠12.5日~出産まで、VPA(100 mg/kgまたは200 mg/kg)を腹腔内に投与した。生まれてきた仔(4週齢)に対して細胞新生のマーカーであるBrdU投与を行った後、行動実験(Y-maze、Open Field test、Elevated plus maze)とrat脳の免疫蛍光組織染色実験(BrdU+DCX, H3-K56-AC)を行った。 結果、VPA濃度依存的に注意力が欠如し自発性の高いADHDのような行動特徴がみられ、BrdU陽性細胞数は増加、いずれの濃度においてもBrdU陽性細胞に対するDCX陽性細胞数の割合は約80%を示した。さらに、VPA200mg/kg投与群におけるH3-K56-AC(ヒストンテールH3-K56のアセチル化)は有意に減少した。外表奇形については、VPA200mg/kg投与群のほとんどの仔において、尻尾の先端に奇形が観察された。さらに、21週齢の仔において同様な実験を行ったところ、行動異常は消失、BrdU陽性細胞数とH3-K56-ACに関しては4週齢と比較して急激に減少しており、4週齢とは異なる結果となった。 本研究では、安全なVPAの服薬において、投与量が重要であることを示し、年齢を重ねる毎にVPAの副作用は減少する可能性を示した。さらにその作用機序に、神経細胞新生とヒストンテールのアセチル化が関与する事を示した。
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