研究課題/領域番号 |
16K19784
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
大井 一高 金沢医科大学, 医学部, 講師 (70629203)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 非罹患第1度近親者 / 中間表現型 / 認知機能 / 脳構造 / 遺伝 |
研究実績の概要 |
統合失調症は、遺伝率80%の多因子遺伝疾患である。同胞を含むその非罹患第1度近親者は、患者の半分の遺伝的リスクを有する。非罹患近親者は、罹患期間、障害重症度および服薬の影響を受けないことから、統合失調症にて障害される認知機能、脳構造、神経生理機能、性格傾向などの中間表現型との関連の検討に有用である。しかし、サンプル収集の難しさから世界的にも非罹患近親者を対象とした中間表現型研究は少ない。 統合失調症患者81例、非罹患近親者20例、健常者25例において認知機能BACSとの関連を検討した。6つのBACS項目のうち、Verbal FluencyとSymbol Codingは3群間で差を認め、有用な中間表現型であることが示唆された。次に、診断情報に関係なくBACS項目のみを用いて対象者を3つの認知機能クラスターに分類した。認知機能が正常域であるクラスター1は健常者や非罹患者から形成され、患者は含まれなかった。認知機能障害が重度であるクラスター3は患者と非罹患者から形成された。認知機能障害が中等度のクラスター2は各群から形成された。さらに、診断と認知機能クラスターが前帯状回体積と関連することを同定した。以上より患者、非罹患近親者、健常者だけでなく認知機能障害もスペクトラムであることが示唆された(In submission)。 さらに、統合失調症に有用な中間表現型を見出すために主要精神障害間で比較し、社会機能の対人関係が特に統合失調症で障害されていること(Yasuyama et al. Psychiatry Res 2017)、精神障害の家族集積性が言語流暢性課題中の前頭葉賦活化に影響を及ぼすこと(Ohi et al. Sci Rep 2017)、128個の統合失調症関連遺伝子多型の頻度に民族差があること(Ohi et al. Transl Psychiatry 2017)を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、統合失調症患者の非罹患近親者において統合失調症にて障害される認知機能、脳構造、神経生理機能、性格傾向などの中間表現型を検討し、統合失調症に関わる分子遺伝基盤を解明することである。患者だけでなく、その非罹患第1度近親者をリクルートし、採血及び各種の認知機能及び神経生理学検査を実施した。当初の予定よりも早く、既に患者100例、非罹患近親者50例、健常者100例の中間表現型データを収集できている。この中の認知機能BACSデータのある統合失調症患者81例、非罹患近親者20例、健常者25例において、統合失調症の有用な中間表現型の有無について検討した。Verbal FluencyとSymbol Codingは群間差を認め、統合失調症の有用な中間表現型であることが示唆された。また、認知機能クラスター解析より、統合失調症の診断だけでなく認知機能障害もスペクトラムであることが示唆された。さらに、診断と認知機能クラスターが前帯状回体積と共通して関連することを同定した(In submission)。 さらに、統合失調症に有用な中間表現型を見出すために主要精神障害間を比較することで、社会機能SFSの対人関係が特に統合失調症で障害されていること(Yasuyama et al., Psychiatry Res 2017)、NIRSを用いて精神障害の家族集積性を認める患者では言語流暢性課題中の前頭葉賦活化が低下していること(Ohi et al., Sci Rep 2017)、128個の統合失調症関連遺伝子の多型頻度に民族差があること(Ohi et al., Transl Psychiatry 2017)を報告した。 以上より、本研究はここまで計画通り遂行できているため、引き続き非罹患近親者を用いた包括的中間表現型解析に着目して、統合失調症の分子遺伝学的基盤を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
これまで同様に、既に確立された体制により効果的、効率的に健常対照群、非罹患第1度近親者群および統合失調症患者群のリクルートを継続して行っていく。さらに収集したサンプルを追加したサンプルにて中間表現型や統合失調症関連遺伝子多型、遺伝子発現との関連について比較検討を進める。 日本統合失調症学会、日本生物学的精神学会、日本精神神経薬理学会だけでなく国内外の学会においても常時成果発表や研究の打ち合わせをしていく。さらに新聞発表などのマスメディア、インターネットなどのアウトリーチにて研究成果を社会・国民に発信していく。
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