研究課題
DNAが巻きついているヒストンのアセチル化は、遺伝子発現を調節し、生体機能維持において重要な役割を担っている。以前の研究から、非定型抗精神病薬クロザピンの慢性投与は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)2誘導を介して認知機能を障害し、前頭前皮質(PFC)のスパイン数減少を引き起こすことをこれまでに明らかにしてきた。平成28年度は、クロザピン慢性処置による認知機能低下やスパイン数減少が、クロザピンにより誘導されたHDAC2による転写制御の関与について調べた。その結果、発現誘導されたHDAC2は、NMDA受容体NR1やスパインの骨格タンパクHomer1のプロモーターに作用してヒストンアセチル化を抑制し、それら遺伝子転写を負に制御していることが分った。さらにクロマチン免疫沈降法により調べた結果、クロザピン慢性投与マウスPFCにおいてNR1とHomer1のプロモーターにHDAC2が結合していること、さらにアセチル化ヒストンが低下していることを明らかとした。さらに以前の研究からクロザピン慢性投与によってNF-kBシグナル経路の活性化およびHDAC2発現の増加を見出している。そこでNF-kBシグナルの活性化がHDAC2発現に与える影響を調べた。NF-kBの活性化を誘発するためにアデノ随伴ウィルスを用いて活性型IKKをPFCに遺伝子導入し、HDAC2の発現を調べたところ、活性型IKKの導入によりNF-kBが核内に移行し、HDAC2発現増加、認知機能の低下およびスパイン数の減少が認められた。以上の結果より、クロザピン処置により誘導されるNF-kB活性化がHDAC2の転写を促進し、それによりNR1やHomer1などスパイン関連遺伝子プロモーターのヒストン脱アセチル化が進むことでスパイン関連遺伝子の転写抑制、スパイン数の減少および認知機能と低下が引き起こされていると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の目標に近い結果が出てきており、進捗状況は順調に進んでいる。
平成29年度は最終年度ということもあり、論文にすることを目的として実験をまとめていく。まず、HDAC2の誘導因子であるNF-kBを抑制するIkB-αをAAVにて過剰発現し、クロザピンによるHDAC2誘導、認知機能低下およびスパイン数の減少が抑えられるかどうか調べる。さらに次世代シークエンサーを活用し、クロザピン処置野生型およびHDAC2欠損マウスにおける網羅的転写産物の解析・比較を行う。それによってNR1やHomer1だけでなく遺伝子群としての変化が分り、Pathway解析により遺伝子群の理解に繋がると期待できる。
本研究に関する論文を現在投稿しており、年度末または年度初めに急遽論文レフリーから追加実験等の要請があった場合の費用として次年度分として繰越することとした。
論文レフリーから実験の要請があったためそのための費用として使う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Molecular Psychiatry 印刷中
巻: - ページ: -
10.1038/mp.2016.254