平成30年度は、子の養育行動における内側視索前野の役割を検討するため、マーモセット9個体に対して内側視索前野もしくは中隔(対照)の機能抑制実験を実施した。家族単位で飼育しているマーモセットの母親の出産後、新生児が12日齢の時点で、被験体となる上のきょうだい個体の内側視索前野もしくは中隔にN-メチル-D-アスパラギン酸溶液を微量注入した。これにより、注入部位の神経細胞が脱落し、機能が抑制されることが期待された。この手術の前後で子の回収テストを実施し、養育行動の変化を検討した。前年度までと合わせて合計15個体に対してこの実験を実施した結果、内側視索前野の機能抑制を受けた個体では、子の回収までの潜時は影響を受けないが、回収後の子の背負い行動が顕著に減少することが明らかとなった。このことから、マーモセットの内側視索前野は、子に対する感受性よりも寛容性に重要であることが示唆された。 上記のように、非可逆的機能抑制については十分な成果を得ることができた。一方、可逆的機能抑制については、Tet-ONシステムを利用したテタヌストキシンの発現による機能抑制実験を、2種類のウイルスベクターを用いて前年度までに合計14個体に実施したが、養育行動に対する有意な効果は認められなかった。実験後の組織学的検討では、内側視索前野を含む領域にテタヌストキシンが発現していることは確認できたが、十分な機能抑制に足りる発現量が得られなかったもの考えられた。このため、現在別の手法として、ムシモールの注入やDREADDsを用いた実験を検討しており、本研究期間の終了後も継続して実施する予定である。
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