本研究の目的は、体表からの検案では死因不明とされる異状死体について、死後CTの肺画像で死因を診断することである。2009年から蓄積してきた症例に、2018年度に新たに撮影した症例を加え、検討を行ってきた。 死後CTにおける肺野の陰影有無に関しては、生前と同様に肺野の含気が保たれ、陰影の認められない症例のほとんどは低体温による死亡例であることが分かったが、低体温ではない症例も少なからず認められた。それらは気管支喘息や高体温症(熱中症)であった。その機序に関しては、剖検結果とあわせ検討中である。また、死後CTにおける肺野陰影の分布や形状、濃度などを複数のパターンに分類し、それぞれの死因において有意に多いパターンを決定した。そのパターンを診断基準として、死因診断の統計的解析を行ったところ、死後CTの肺所見のみで、溺水による死亡は90%程度、低体温による死亡に関してはほぼ100%の正診率をもって診断可能であることが示された。他の死因に関しては正診率が低く、肺所見のみでの診断は難しい結果となったが、今回の検討の過程で、診断に寄与する追加所見の候補を見つけることができた。ただし乳幼児の症例に関しては、死因と死後CT肺所見との関係が成人と異なっており、区別して考える必要があることが分かった。また腐敗の進行した症例に関しては、肺野の陰影にさらなる変化が生じるため、診断は難しくなることが分かった。 これまでの内容の一部をまとめたものが、オーストリアのウィーンで2019年2月27日から3月3日まで開催されたEuropean Congress of Radiology (欧州放射線学会) のポスター発表として採択され、世界に発信した。 今回の研究によって、死後CT肺所見のみで十分診断可能な死因と、不十分である死因とが明確に示された。今後は後者に対して、肺以外の所見を加えて診断能を検討していきたい。
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