頭蓋内照射後の小児癌生存者の40-50%に遅発性認知機能障害が生じ、学習障害、記憶障害、人付き合い困難、行動適応障害、長期にわたる教育・職業上の障害に苦悩している。本研究は、小児癌頭蓋内放射線照射後10年以上経過した症例を対象とし、脳微細構造変化の検出できるAdvanced MR imagingを用い、放射線照射後遅発性認知機能障害の病態を解明し、将来生じうる認知機能障害を予測したMRI機能画像検査法を明らかにする。 小児に発症した頭蓋内胚細胞腫において放射線治療後10年以上経過した例を対象とした。放射線治療前に記銘力障害や抑鬱といった精神症状、および画像上水頭症を呈する例を除き、30例を収集した。放射線治療前、治療後6ヶ月以内、治療後10-12年目にWAIS-III、WMS-Rによる認知・記憶機能の評価をおこない、有意な認知機能低下を認めた。脳の放射線照射野を研究群、非照射野を対照群とし、画像の比較研究をおこなった。MRIの撮像に関しては、フィリプス3T-MRI装置による磁化率強調画像(PRESTO)、非造影脳灌流画像、拡散テンソル画像の収集を実施した。PRESTO-MRIによる脳内微小出血、血管密度(認知機能や記憶の中枢として知られる海馬エリア、照射野、深部大脳白質の3つの領域)の評価、非造影灌流画像による定量脳灌流の評価をおこなった。脳内の微細構造を、拡散MRIで得られた元画像から神経突起密度や神経突起散乱を算出する再構成法、Neurite Orientation Dispersion and Density Imaging (NODDI) 解析にて各種パラメータ(ODI、NDI)を用いて評価した。これらのMR画像パラメーターは脳の微細構造変化を早期かつ鋭敏に検出可能であり、小児癌治療後に生じうる認知機能障害の早期発見、治療方針の決定に大きな影響を与えると思われる。
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