放射線照射により、正常細胞においてもがん細胞においても遅発性の活性酸素種が増加することがわかった。がん細胞においては遅発性の活性酸素種が増加しても細胞老化が誘導されないのに対して、正常細胞においては遅発性活性酸素種が増加することにより細胞老化が誘導されることがわかった。細胞老化誘導に関与するタンパク質をウェスタンブロット法により確認したところ、正常細胞ではp53タンパク質、及びその下流のp21タンパク質の発現が遅発性活性酸素種により増加されることがわかった。驚くべきことに、p53野生型の大腸がん細胞であるRKO細胞においては遅発性活性酸素種によってp53の発現レベルの増加がみられなかった。活性酸素種が直接p53の発現を誘導しているのではなく、その上流に作用していることが考えられる。今後、その上流が何か明らかにしていきたいと考えている。遅発性活性酸素種を抑制した時と、していない時でコロニー形成率を比較すると、がん細胞においては変わらないのに対して、正常細胞ではコロニー形成率が遅発性活性酸素種を抑制することにより高くなることがわかった。この結果はがん細胞においては細胞老化が誘導されない結果と一致した。 近年、老化細胞は長期に渡って組織内にとどまり、Senescence-associated secretory phenotype(SASP)と呼ばれる炎症性サイトカインやケモカイン、細胞外マトリクス分解酵素などの様々な因子を分泌し、炎症作用や発がんに関与することが考えられるようになってきた(Coppe et al. PLoS Biol 2008)。本研究により遅発性活性酸素種は正常細胞でのみ細胞老化を誘導することから、SASP因子の分泌に関与していることが考えられる。遅発性活性酸素種がSASP因子の分泌を介して、正常組織での炎症に寄与するのか検討を進めているところである。
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