研究課題/領域番号 |
16K19863
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
桐山 智成 日本医科大学, 医学部, 講師 (80619205)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 心筋血流定量 / 半導体SPECT / 吸収・減弱補正 / 体動補正 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は半導体SPECTを用いた心筋血流定量において、心臓のモーションアーチファクトの補正と吸収減弱補正を導入し、定量精度を高めることである。 心筋血流定量におけるモーションアーチファクトは主に呼吸運動によって生じるため、最初に呼吸同期によるインプット信号を半導体カメラに読み込み、呼吸同期による位置補正を試みた。本来心電図同期に使用されるインプット回路を呼吸によるトリガーで置き換えるためトリガーの回数が心拍数より大幅に少ないことでスキャンが停止する現象が生じた。さらに、血流定量時のダイナミック撮像の各フレームを分析したところ、約10分間の収集時間のうちトレーサの注入直前・直後である撮像の初期に比較して、撮像の広範では心臓が頭側に移動する現象が多く見られた。特にアデノシンを用いた負荷時にこの現象が大きく、呼吸サイクルによるブレよりも呼吸振幅の深さによる心臓の移動のほうが精度向上のために重要であることを発見した。 吸収減弱補正に関しては最初にCT画像を用いた減弱補正法と正常症例の登録によって作成した心筋のみを考慮したモデルの2つにおいて検討を行った。前者に関しては海外の研究者よりCT減弱補正の有無では補正を行わないほうが血流定量の精度が高いことが報告され、我々の検討でも精度を改善しなかった。後者の補正法においても症例ごとの体格による差が大きく、標準体型や正常心筋のサイズを外れる症例では大きく精度が低下する結果となった。このため、来年度においてはあらたな吸収減弱補正法の開発に着手する。 加えて、上記2つの検討中に浮上したトレーサの投与量とダイナミック撮像の再構成フレームの適正時間、位置決めや1回目のスキャンによって心筋に残るカウントのサブトラクションの適切化、適切な動態解析モデル・ソフトウェアの比較などを行い、複数の学会・研究会において報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
呼吸同期法の開発に関して、呼吸運動をトリガーとする信号を心電図同期の回線からインプットするため、撮像機器に入力した信号の頻度が少なく、装置がエラーとして認識してしまう現象を回避することが出来なかった。また、ダイナミック撮像の再構成フレームの検討により、呼吸1サイクルごとの心筋の位置の変化より、撮影初期から後期にかけての呼吸の振幅の深さによる位置の変化が大きいことを発見した。このため、当初の案を変更し、呼吸振幅の変動によるフレームごとの位置補正法の開発に着手することになった。 吸収減弱補正法の開発に関しては、CTを用いた減弱補正、心筋のみを考慮したモデルによる方法とも心筋血流定量の精度を改善しないことが判明し、前者においては海外の研究者の報告でも同様の結果であった。そのため、心筋のみでなく症例ごとの体格モデルを加味した減弱補正を行えるソフトウェアの開発を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの検討において呼吸トリガーを用いた呼吸同期による位置補正法、CTおよび心筋のみのモデルを用いた減弱補正法の両者において、補正前に比較して心筋血流定量の精度向上が得られないことが判明した。 前者に関しては呼吸同期よりもダイナミック撮像の時間内における呼吸振幅の変動がよりモーションアーチファクトの発生に重要であることが得られたため、ダイナミック撮像の再構成フレームごとの心臓の位置補正による精度改善を目的として再設定し、至適な再構成フレームの長さ(時間)とあわせて検討を行っていく方針である。 後者に関して、検討の過程でおこなった基礎実験において当施設の半導体SPECT装置は従来のアンガー型装置と異なり、視野内の空間的な歪みやガンマ線への不均一な感度分布があることが分かったため、通常のCT減弱補正で用いられるような減弱補正マップでは適切な補正を出来ない可能性が示唆された。また、歪みの少ない視野中心部の心筋のみを抽出し、心筋のサイズ・形状にアトラスモデルを当てはめて行う減弱補正法も行ったが、補正の精度は十分でなかった。このため、個々の症例の体格の輪郭、半導体カメラの撮像視野範囲内での歪みや感度分布を考慮したより高度な減弱補正マップの作成法に着手する。 そのほかに上記の研究過程で精度向上のために必要と思われる複数の因子が浮上した。位置決めや1回目の撮影時に投与したトレーサの集積をキャンセルするための適切なサブトラクション法、ダイナミック撮像の時間帯に特に高く認められる心外集積による心筋カウントへの影響、心拍・血圧およびヘマトクリットによる定量値への影響、解析ソフトウェアごとで異なる心筋血流動態解析モデルと解析結果の相違などである。これらについても定量精度の向上のため解決出来る範囲で検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定で外部委託を行っていた吸収・減弱補正用のSPECTビューアの開発の一部において、別の研究で使用を予定していた施設内のソフトウェアで代替え出来ることが分かったために、本年度はこのソフトウェアによる減弱補正の精度向上についての検討を行った。そのため、当初外部委託していたソフトウェアの購入を控える結果となった。また、本年度の検討結果から当初の減弱補正法では十分な精度向上が得られない可能性が高くなったため、あらたに考案した減弱補正法の開発について外部機関と現在調整を行っており、次年度中にあらたな減弱補正用ソフトウェアを開発・購入予定である。 また、呼吸同期に関しても撮像装置側のエラーが生じたこと、当初の想定と異なるダイナミック撮像の各再構成フレームごとの体動補正法のほうが精度向上に重要であることがわかったため、翌年度はあらたな体動補正ソフトウェアの開発・購入資金として助成金の一部を使用予定である。 加えて、心筋血流動態解析ソフトウェアに採用されている動態解析モデルや補正法の違いによって解析結果に相違が生じることが判明したため、現在使用しているソフトウェアと解析モデルの異なる動態解析ソフトウェアの購入についても一部助成金を使用予定である。
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