研究実績の概要 |
本研究の目的は、薬物刺激によるグルタミン酸神経の賦活及び抑制状態におけるグルタミン酸受容体の密度(発現量)変化を陽電子断層撮像法(PET)を用いることにより生きたままの状態で観察することである。平成28年度では、グルタミン酸の一過性過剰放出を促すピロカルピンを投与することにより、てんかん発作を起こす病態モデルを用いてPETイメージング研究を行い、代謝型グルタミン酸受容体1(mGluR1)の受容体密度がグルタミン酸神経毒性に由来する神経炎症に付随して減少していくことを見出した。 平成29年度では、グルタミン酸の慢性的な放出を促す非炎症型の動物モデルを用いてmGluR1を標的としたPETイメージング研究を行った。SDラットに、グルタミン酸の放出を促進することが知られるN-Acetylcysteine(NAC)をアルゼットポンプ(AZP)を腹腔内に留置し、15 mg/dayの流速で継続的に投与した。AZP移植後1, 3, 7, 10, 14日後にPET撮像を行ったところ、投与後1日から3日にかけて、mGluR1の発現量が豊富な領域である帯状回、線条体、視床、海馬、小脳で受容体密度の上昇が見られ、その後、7日から10日後にかけて、正常レベルまで減少することが明らかとなった。これらの結果から、移植後初期では、シナプス間隙のグルタミン酸の恒常性維持のためにmGluR1の発現量が増加し、その後、mGluR1活性化に伴い、副産物である内在性アナンダミドが過剰に産生され、生理的な逆行性のグルタミン酸神経の抑制が生じ、グルシナプス間隙のグルタミン酸濃度が正常レベルまでに徐々に回復したと示唆される。
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