研究課題
本研究の目的は、薬物刺激によるグルタミン酸神経の賦活及び抑制状態におけるグルタミン酸受容体の密度(発現量)変化を陽電子断層撮像法(PET)を用いることにより生きたままの状態で観察することである。平成28年度では、グルタミン酸の一過性過剰放出を促すピロカルピンを投与することにより、てんかん発作を起こす病態モデルを用いてPETイメージング研究を行い、代謝型グルタミン酸受容体1(mGluR1)の受容体密度がグルタミン酸神経毒性に由来する神経炎症に付随して減少していくことを見出した。平成29年度では、グルタミン酸の慢性的な放出を促す非炎症型の動物モデルを用いてmGluR1を標的としたPETイメージング研究を行い、慢性的なグルタミン酸高濃度状態においては、mGluR1の発現量が上昇し、グルタミン酸濃度の低下に付随して正常レベルに戻ることを見出した。最終年度では、mGluR1活性化に伴い、副産物である内在性カンナビノイドが過剰に産生され、生理的な逆行性のグルタミン酸神経の抑制が生じ、グルシナプス間隙のグルタミン酸濃度が正常レベルまでに徐々に回復したと示唆されたことから、平成29年度で用いた非炎症型の動物モデルを用いて内在性カンナビノイドの分解酵素であるMAGLを標的としたPETイメージング研究を行った。その結果、N-Acetylcysteine(NAC)溶液を入れたアルゼットポンプ(AZP)を腹腔内に移植したラットにおいて、MAGLに選択的なPETプローブである[11C]SARの放射能集積は、AZP移植後1日目から徐々に上昇し始め、7日目で最大に達し、その後低下した。本研究を通じて、グルタミン酸の過剰な放出がmGluR1の発現量を増加させ、その結果、内在性カンナビノイドの産生が促進され、逆行性のグルタミン酸放出抑制が起こることをPETイメージングによって明らかにした。
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